大筒木一族の最後の末裔20

「――影分身の術」

 ポフン、という音と共に煙が立ち上る。
 こっそりチャクラの流れを見てみるが、多少の拙さはあるものの順調そのものだった。
 これならきっと上手くいくだろう。
 影分身が禁術扱いされるているのは、チャクラが少ない者が術を行使すると死んでしまう危険が非常に高いからなので、その点についてはチャクラの多いナルトを心配していない。

 そして煙が晴れると、そこには無事に二人に増えたナルトの姿があった。

「……成功したみたいだな。いやはや、まさか今日中に使えるようになるとは俺もびっくりだ。おめでとう、よくやったな。俺なんかあっという間に抜かされそうだぜ……いやほんとに」

 水面歩行ができてからの習得は早かった。
 チャクラ操作のコツを掴むとすぐに水面歩行をマスターし、影分身の術を何回か実践して見せると見事にものにしてみせたのだ。
 ナルトには驚かされっぱなしである。

「「ぃやったーー! ついに影分身を習得したってばよ!」」

 二人のナルトが互いにハイタッチを交わし、同じように双子みたいな動作で喜び合う。
 そのあと、俺の方に向かって飛びついてきた。
 子供のタックルとはいえ、二人同時のタックルともなればそこそこ強いが、何とかその衝撃を殺して二人のナルトを受け止める。

「おわっと、急にどうしたんだよ?」

「へへへ、カムイのおかげだってばよ。ありがとなっ」

「うんうん、さすがはオレの師匠だってばよ!」

「ははは……お前なら俺なんてすぐ抜かせるよ。それに、この術を習得できたのは全部ナルトの努力と才能だ。俺はその手伝いをしてやったに過ぎないさ」

「なに言ってるんだってばよ。こんなにも早く術が使えるようになったのは、カムイの教え方が良かったからに決まってんじゃんか。師匠、これからもよろしくなっ!」

 ナ、ナルトの純粋な眼差しが眩しい!
 その期待に押し潰されてしまいそうだ……俺は元一般人なんだぜ?
 所詮は平和な日本で暮らしていた一般人の俺が、いずれ火影どころか最強の忍になる予定のナルトと張り合える訳ないだろうが。

 ……いや、転生眼を使えば出来なくもない、か?

 そうだ。
 ナルトに九尾が封印されているように、俺には転生眼の力が宿っている。
 原作の映画でも、転生眼を持っていた敵キャラは真正面から十全に九尾を使いこなしているナルトと渡り合っていた。
 俺の目にある転生眼が特別製なことを考えれば十二分に張り合えるかもしれない。

 問題はそんな強力な力でも、使用者が俺だってことか。
 うん、なら当面の目標はハーレムを作って一族の再興だったが、それに加えてナルトと張り合えるだけの力を得る、というのを追加しよう。
 俗物な願いしかないのが何とも俺らしい。

「お前が満足するまでは、俺に出来ることならいくらでも教えてやるよ。俺はナルトの師匠になったみたいだからな。一緒に強くなろうぜ」

 もちろん、ナルトを強化してやることも忘れずにやるさ。
 その上で俺も修行して強くなろう。
 大丈夫、大筒木カムイとしての身体と転生眼さえあれば出来るはずだ。

「にしし、カムイとならどこまででも強くなれる気がするってばよ」

 そう言って純真な笑みを真っ直ぐに浮かべるナルトの頭を撫でていると、今まで俺たちの様子を見守ってくれていた紅さんが近づいてきた。
 彼女も笑顔を浮かべているが、ナルトが影分身を習得できたことを驚いているようにも見える。

「まさか本当に影分身が使えるようになるなんてね……。一応、あれって禁術扱いな筈なんだけど。カムイの教え方が上手かったにしても、ナルトくんの飲み込みが異常に早かったのかしら。私の出る幕なんてまるで無かったわ」

「紅先生はそのうち、幻術とかについての授業でもしてくださいよ。幻術のスペシャリストな紅さんの授業なら俺も聞きたいし、どうかお願いします」

「そんなことで良いならいくらでもしてあげるわ。今日も途中で口出ししようと思ってたんだけど、二人があんまりにも楽しそうにやってるから完全に除け者だったし?」

「あ、いや、別にそういう訳じゃ……」

「フフフ、冗談よ。おかげさまで私もゆっくり出来たから、むしろ助かったわ」

 なんだ、紅さんが休めたなら良いや。
 でもせっかく幻術使いの紅さんがいるんだから、次は彼女にご教授してもらうことにしよう。

「ナルト、今度は紅さんが幻術について教えてくれるってさ。紅さんの幻術は本当に凄いんだ。だから期待してくれていいぞ」

「えっ、紅の姉ちゃんって幻術が使えんのか!? すげぇ! それならオレにも教えてくれってばよ!」

 紅さんはナルトにせがまれて満更でもなさそうだった。

「ええ、良いわよ。でも今日はそろそろお開きね。もうすぐ日が暮れちゃうから」

「もうそんな時間……って、ああああああ!!」

「ど、どうした? いきなりそんな大声を上げて」

「今日は三代目のじいちゃんに呼ばれてたのをすっかり忘れてたってばよ……」

 頭を抱えて項垂れるナルト。
 あらら、それはまずい。
 ちょうどいい時間だから今から一緒に飯でも食いに行こうと思っていたが、火影の爺さんとの約束があったのなら今すぐ行くべきだろう。
 あの人は一応ナルトの保護者なんだし。

「なら急いで行ってきな。明日は暇か?」

「おうっ! 明日もまた遊ぼうな!」

「じゃあ明日も呼びに行くから、ちゃんと起きてろよ」

 俺がそう言うと、ナルトはニカッと笑いながら親指を立てた。

「もちろんだってばよ。それじゃあ、オレはもう行くな。今日は楽しかったってばよ。カムイと紅の姉ちゃん、あんがと!」

 走っていくナルトを見送り、今日のところはお開きとなった。

 その日からの俺はナルトに修行を付けてやったり、紅さんの授業をナルトと二人で聞いたり、はたまた俺自身の修行をしたりといった毎日を数日ほど送っている。
 俺もナルトも順調に強くなっていると思う。
 このペースなら、ナルトが大きくなっている頃には原作よりもはるかに強くなっているはずだ。

 ただ、里の人からの評価は相変わらず良く思われていないのが気がかりではある……。
 早いとこどうにかしてやりたいんだがな、俺一人じゃどうすることもできない。
 俺にしてやれることは遊び相手になってやるくらいしかないからな……。

 

   

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