大筒木一族の最後の末裔21

 ヒアシさんにお呼ばれしたので、昼飯を済ませてから紅さんと一緒に日向の屋敷へと向かう。
 あそこに行くのはこれで2度目になる訳だが、いかにも名家って感じで場違い感が凄いから、まだ少し緊張するんだよな。
 その上、ヒアシさんは俺を当主のような扱いで話してくるから尚更だ。

 それと最近はほぼ毎日ナルトと一緒だったが、俺の監視役である紅さんはともかく関係ないナルトを連れて行く訳にもいかない。
 なので今日の修行は自習と言っておいた。
 初めは残念がっていたが、また一楽を奢ってやると言えばすぐにご機嫌になるもんだから本当に助かる。

 ま、奢ると言っても金は全部紅さんが出すんだけどねっ!
 今や俺は立派なヒモだよ。
 ここで重要なのは、どうやら俺はかなりのヒモ気質で、紅さんにお金を出してもらってもあんまり良心が痛まないってことだ。
 控えめに言って最低である。

 ……自分で言ってても悲しくなってくるから、この話はここまでにしておこう。
 ちょうど日向の屋敷に到着したし。

「何度見てもここのお屋敷は立派ね。ちょっとだけ憧れちゃうわ」

「でも俺は紅さんの部屋の方が好きですよ? あの部屋って、すごく落ち着きますから大好きなんです」

 俺の言葉に紅さんは笑顔になる……ことはなく、訝しむような視線を投げかけてきた。

「嬉しいけど、カムイの言葉って何か裏がありそうなのよね……本音は?」

「ヒモ生活最高ー!」

「……はぁ。ある意味カムイらしいわ」

 はっ!?
 ついうっかり本音が溢れてしまった。
 慌てて訂正しようとするが時すでに遅し。
 紅さんからの視線が痛い……。

 しかし門の前で会話していると、タイミングよく中から女の人が出てきた。
 助かった。
 このままだと俺の精神が視線に耐え切れないところだったから。

「お待ちしておりました、カムイ様。話はヒアシ様から聞いています。こちらへどうぞ」

「あ、なら私はちょっと席を外しているわ。ちょうど行っておきたい場所もあったし、終わった頃にまた迎えに来るわね」

「え、一緒に来ないんですか?」

「日向一族の所なら、わざわざ私が居なくても大丈夫よ。それに、色々と込み入った話があるかもしれないしね。その時、私は居ない方が良いでしょ」

 そういって紅さんは、呼びとどめる暇もなく手を振ってどこかへ行ってしまった。
 一緒に行くものとばかり思っていたから驚きだ。
 できれば一緒にいて欲しかったんだけどな。
 紅さんなりに気を使ってくれたのだろうけど、彼女がいないと非常に心細い。

「それでは、どうぞこちらへ」

「……お邪魔します」

 そうして俺はひとりで屋敷の中へと案内され、見覚えのある部屋へと連れてこられた。
 出されたお茶を啜っていると、そう間を置かずにヒアシさんがやってくる。

「待たせてしまって申し訳ない。よく来てくれたな、カムイ君」

「全然待ってませんから大丈夫です。数日ぶりですねヒアシさん。お久しぶりです」

「ああ、突然呼び出してすまない。実は早めに君と子供たちを引き合わせておきたくてね。早速でなんだが、紹介してもいいかい?」

「ええ、もちろん」

「それは良かった。二人とも、入ってきなさい」

 ヒアシさんがそう呼びかけると、二人の子供が襖を開けて入ってくる。
 髪が長い男の子と、短い女の子だ。
 男の子の方は気が強そうで堂々としているが、反対に女の子の方はオドオドして怯えているようにも見える。

 やっぱり子供っていうのはネジとヒナタのことだったらしい。
 ずいぶんと対照的なこの二人の子供は、兄弟ではなく親戚同士みたいな関係だった筈だ。
 そのうち会うだろうとは思っていたけど、いざこうして会ってみると何を話せば良いのか分からんな。

「ネジ、ヒナタ。こちらが以前話したカムイ君だ。自己紹介しなさい」

「……日向ネジと申します。カムイ様のお話はヒアシ様から色々と伺っております」

「わ、わたしは日向ヒナタです。よろしくお願いしましゅ」

 ……女の子の方が舌を噛んだ。
 痛みと恥ずかしさで涙目になり、顔が急激に赤くなっていく。
 こう、無性に守ってあげたくなるというか、ものすごく庇護欲を掻き立てられる少女だな。
 流石は原作ヒロインの『日向ヒナタ』ってところか。

 隣のネジ少年は中々に小生意気そうで、『俺はお前を認めない!』ってな感じの視線をビシビシと送ってきている。
 さっそく俺は嫌われてしまったらしい。

 まぁ、よく知らないやつが自分の家をうろちょろしていれば警戒もするか。
 急に現れたやつと仲良くしろなんて言われても、反発したくなるのも無理はない。
 確か日向一族って宗家とか分家とかかなり厄介な問題があった筈だしな。

「そんなに気張らなくても大丈夫だぞ? ヒアシさんがなんて言ったかは知らないけど、俺のことはその辺にいる普通のお兄さんとでも思ってくれたら良い」

 俺がそう言うと、ネジはそのままだったがヒナタの方は少しだけ表情が和らいだ。

「カムイ様。あなたは以前、ヒアシ様との手合わせで勝利したとか。ぜひ私ともお手合わせしていただきたい」

「俺と? 別にいいけど……良いですかヒアシさん?」

 俺がヒアシさんにどうするかと尋ねると、彼は首を縦に振った。

「構わない。ネジは日向一族きっての天才で、この歳でもうその片鱗を感じさせられるほどだ。カムイ君と戦えば良い刺激になるだろう。もし君が良ければ相手をしてやってほしい」

「ヒアシさんにはお世話になりっぱなしだし、俺で良ければいくらでも相手になりますよ。それでネジ少年、ハンデはいるかい?」

「……結構です。対等な条件でなければ意味がない」

 ありゃ、ピシャリと断られちゃった。
 本気で俺を倒すつもりでいるらしい。
 ヒアシさんならともかく、正直いまのネジなら片手でも勝てると思うんだがな。

「ネジ少年。君、俺なんかに負けるはずないって思ってないか?」

「そんなこと、思っていませんよ」

「ははっ、別に良いって。でも、俺は子供だからって負けてやるつもりはない。怪我しても許してくれよ?」

「ええ、もちろん」

 めちゃくちゃやる気……いや、殺る気満々って感じだ。
 元気があって大変よろしい。
 こう見えても俺は大人だから、大らかな心で見守ってやれる。

「ヒナタちゃんはどうする? 君もやってみるか?」

「わ、わたしは弱いから……ごめんなさい」

「謝る必要は無いって。それじゃ、君はお兄さんの応援だな」

「あ、はいっ。わかりました」

「稽古するなら中庭で行うといい。以前私と戦った場所だからわかるだろう」

 うし、軽くもんでやるとしよう。
 ナルトとの稽古でだいぶやり方が分かってきているから、丁度いいくらいにへこましてやるとする。

 

   

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