「はっ!」
ネジは先手必勝とばかりに、さっそく白眼を発動して飛び掛かってきた。
鋭い突きだが、それでもまだスピードも力もヒアシさんには遠く及ばない。
今の俺なら余裕を持って対処できる程度だ。
もちろんネジの年齢を考えれば十分すぎるのだろうが、だからと言って勝ちを譲ってやろうとは微塵も思わないな。
「っと、凄いな。思ってた以上に強い。それこそ、同世代なら敵なしだろう」
「そんな口をきけるのもっ、今のうちだけだ!」
攻撃を捌きながら話しかけると、そんな怒ったような声が帰ってきた。
えぇ……今のは挑発したつもりはなかったんだけど。
単純にすげぇじゃんって言いたかっただけなんだけど。
でもネジは、その勘違いを訂正させてくれる余裕なんてくれやしない。
それなら逆にもっと――。
「ずいぶん力のこもった攻撃だな。でも、身体に無駄な力が入り過ぎている。それじゃあ自分よりも強い相手には中々勝てないぞ? もちろん、俺にも勝てるわけがない」
「くっ、虚仮にして……!」
うんうん、かなりイラついているみたいだな。
さっきのはわざと挑発してみた。
子供相手に少々大人気ない気もするが、ずいぶん沸点が低そうだったからつい言いたくなってしまったんだ。
「せぇえい! はっ! せやぁ!」
ネジの動きはかなり速くてキレもある。
しかも、正確に〝点穴〟と呼ばれるチャクラの通り道である部位を狙ってきているのだから恐ろしい。
でも言ってしまえばそれだけだ。
ヒアシさんみたいに積み重ねられた経験や技術はないから、俺の拙い体術でも全ての攻撃を捌き切ることができる。
それも完璧に、な。
もしもその点穴を突かれるとしばらくの間はチャクラが練れなくなってしまうが、当たらなければどうということはない。
むしろ狙いが分かりやすくて防ぎ易いくらいだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
そうして放たれる攻撃を全て最小限の動きで回避するか弾いていると、集中力が切れてきたのか次第にネジの動きが鈍くなってきていた。
スタミナ切れだろうか。
あれだけがむしゃらに攻撃し続けていれば無理もないが、動きにずいぶん無駄が多くなっている。
「どうした、足が止まっているぞ?」
「……貴方ならいつでも俺を倒せるはずだ。なぜ逃げるばかりで反撃して来ない?」
「言っておくけど、別にナメている訳じゃないよ。ただ、君がどこまでやれるのか見極めたくてさ。もしかしてこれが日向ネジの全力か?」
くいくいと人差し指で煽ってやれば、ネジはピクリと眉を反応させ、再び冷静さを欠いた動きで俺に向かってきた。
短気は損気なんて言葉があったが戦闘ではもろにそれが当てはまる。
まぁこんな偉そうに言ってても、俺だって最近の紅さんとの修行でわかったことだけどな。
「俺のことを何も知らないくせに、好き勝手なことを言うんじゃない。不愉快だ!」
「確かに俺は君のことを知らないが、君も俺のことを知らないだろう? 例えば――点穴を突けるのは、別に君だけじゃないんだぜ?」
「なっ!?」
防御に徹していた俺は一転、ギアを一段階引き上げて次々とネジの点穴を突いていく。
そして点穴を突かれたネジの身体はチャクラの流れが止まっていき、これでもう満足にチャクラを練ることは出来ない筈だ。
ちなみにこの技術は影分身を使って練習した。
影分身は攻撃を受けると簡単に消滅してしまうので、本体である俺が技を受ける側となり、点穴を正確に突く為の修行をしたんだ。
でも正直、二度とやりたくないレベルですんごい痛かった。
点穴を突くって、自分の身体で練習するもんじゃないね。
これ、流すチャクラの量を間違えるとマジで痛いんだ。
でも何故かはわからないけど、次の日になるとケロッと治っていたんだよな。
それも前日と比べてかなりチャクラの流れが速くなるという副作用付きで。
でも今はもうちゃんとコントロール出来ているから、指で突かれた痛み以外はほとんどなく、チャクラの流れを止めることが可能だ。
そろそろ体力も限界だろうし、安心して攻撃を食らってくれたまえ。
我ながら中々に大人気ない戦い方である。
「これでしばらくはチャクラを練れなくなった。さぁ、どうする?」
「たとえチャクラの流れが止まろうとも、俺は最後まで足掻いてみせる!」
真っ直ぐ向かってくる小さな拳。
今まで散々躱してきたというのに、それだけはもろに受けてしまう。
「つぅ……良いパンチだ」
俺の腹に全力で拳を叩き込んだネジは、そのあと力尽きたように膝をついた。
「ネジ兄さん!」
「来るな! ヒナタ様は来ないでください。これは俺の戦いだ」
「ご、ごめんなさい……」
俺たちの戦いを見ていたヒナタがネジに駆け寄ろうとしたが、他ならぬネジがそれを止めた。
二人はあまり良好な関係ではないらしい。
そしてネジはヒナタから俺に視線を移した。
「所詮俺は、俺たちは籠の中の鳥だ。いずれ宗家の為に使い潰される運命にある。俺程度がどれだけ足掻いたところで、それは変えられないかもしれない。だが、それでも俺が強ければ……」
その言葉は俺にというよりも、宗家であるヒナタや自分自身に向けての言葉のように聞こえた。
あー、確か日向の分家には呪印が施されるんだっけ?
宗家の人間が印を結べば簡単に殺せるとか、かなり物騒なものだったはずだ。
それから、日向一族が持つ白眼を他里に渡さないように、死んだらその能力を封印するとかって役割もあったっけ?
……うん、じゃあそんなものは壊してしまおう。
「そっかそっか、じゃあこれは内緒な?」
「一体何を?」
不思議そうな顔で見上げてくるネジの額にそっと触れた。
髪で隠れていた呪印をジッと見つめ、そして転生眼を発動させる。
そして呪印の一部を破壊した。
「俺に一撃入れたご褒美だ。これで宗家の人間がお前のことを縛り付けようとしても、自分の意思で抗うことが出来るだろう。ただ、死んだら白眼が消えるって方はそのまま残しておいたぞ。そっちはむしろ、お前を守ってくれるはずだからな」
「お前、自分が何をしたのか分かって――」
「ああ、ヒアシさんに怒られるかもしれないな。だからしばらくは内緒にしてくれ。その代わり、お前の運命ってやつを変える為に力を貸そう。なっ?」
「……くっ、はははは! 面白い人だな、貴方は」
ああ、よく言われるよ。
今も昔も変わらずに。