大筒木一族の最後の末裔23

 ネジとの戦いが終わると、今までの反抗的な態度が一変し、俺に稽古を付けてくれと言い出した。
 急に素直になったからビックリしたけど、ネジの体術は基礎がしっかりしているから、俺自身の勉強にもなって一石二鳥だ。
 断る理由もない。
 まぁ、稽古と言っても俺にできるのは組手をしながら少しアドバイスするくらいだけど。

 そして、せっかくなので今まで見ていただけだったヒナタも一緒にやらないかと誘うと、笑顔を浮かべて参加してくれることになった。

「おっ、ヒナタも結構やるじゃないか。その調子でどんどん攻撃してこい」

「はいっ!」

 原作では確か、ヒナタの幼少時代は落ちこぼれだったみたいな話があったけど、俺がこうして見た限りではそんなことはない。
 少なくとも落ちこぼれではないと断言できる。
 そりゃ天才的な才能を持っているネジと比べると見劣りするかもしれないが、十分に優秀な忍になる素質をヒナタは持っていると思う。

 つーか、幼児がここまでの体術ができるって普通に天才じゃないのか?
 日向一族が特別なのかもしれないけど、幼児が前世の大人顔負けの体術を使うとか、修この羅の世界って怖すぎんだろ……。
 今更だけど違和感が凄い。

 ただ、ヒナタに明確な弱点があるとすれば、それは攻撃するのもされるのも怖がっているということかな。
 センスは十分にあるけど、戦うことを怖がって自分の力を発揮できていないように感じた。

「ヒナタ、怖がるのは別にいい。でも、それで身体を強張らせるのは駄目だ。落ち着いて俺の動きをよく見れば、ヒナタなら問題なく防げるはずだ。自分の心を落ち着けろ」

 臆病な性格は欠点じゃない。
 それを上手くコントロールできるようになれば、むしろ武器にだってすることができると思う。
 そういう意味では、ヒナタは人一倍可能性を秘めていると言える。

「わ、わかりました!」

 うんうん、徐々に俺への攻撃を怖がらなくなってきた。
 どんな攻撃をしても、俺なら問題ないと思い始めたのかもしれない。
 良い傾向だ。
 この調子で改善していけば、いずれはネジにも劣らない柔拳使いになるんじゃないかな。

「相手はヒナタ様だけじゃないですよ!」

 俺がヒナタの上達を感じていると、背後から鋭い掌底が飛んできた。
 ヒナタとは違って、ネジは俺の急所を的確に狙ってきている。
 ……お前は少しくらい遠慮せい。

 見ての通り、いま俺はネジとヒナタの二人を同時に相手している状態だ。
 徐々に連携が上手くなってきているこの兄妹。
 さっきまではあんまり仲が良さそうには見えなかったのに、今では息がピッタリである。
 俺にも歳上としてのプライドがあるので、表面上は涼しい顔で攻撃を捌いているように見せているが、何度もヒヤッとする場面があった。

「せいっ!」

「はぁっ!」

「おっとと……そろそろ休憩にしないか?」

「もう少しだけお願いします!」

「お願いしますっ」

 ネジだけじゃなくヒナタまでもが続行を希望した。
 あれ?
 さっきまでのヒナタは遠慮しがちだったのに、何でそんな嬉々として俺に柔拳を使ってきてるの?
 今は少しくらい怖がっても良いんだよ?
 俺はむしろ君たちの攻撃が当たりそうでビクビクしてるよ?

 そんな真剣な表情をされたら断れないじゃないか……。

「……元気いいね、君たち。それじゃあもうちょっとだけやろっか」

 俺がそう言うと、二人は『ありがとうございます!』と声を揃え、疲れなんて微塵も感じさせない動きで連携しながら文字通り飛び掛かってくる。
 気を抜くとマジで良いのが入りそうだから怖い。
 本当に、怖い。

 ――紅さーん、俺を助けてください。このままじゃ俺の威厳が保てませーん。

 俺の心の声をよそに、兄妹の攻撃は一層激しさを増したのだった。

 

 ◆◆◆

 ようやく地獄の組手が終わった……と思ったら、本当の地獄はそれからだった。

「……カムイ君」

「は、はい」

 単刀直入に言おう。
 ネジの呪印を一部解除したことがヒアシさんにバレていた。
 俺があの呪印を解除できたのは、あれが経絡系に仕掛けをするタイプの呪印だったからなんだが、白眼を持つ日向一族はその経絡系を直接視ることができる。
 つまり、いくら一部だけと言ってもあの呪印を解除したのは軽率だったということだ。

 ……ど、どうしよう?
 いずれ言おうと思っていたことだけど、バレるのと自分から報告するのとでは天と地ほどの差がある。

 これだと下手をしなくても、俺だけじゃなくネジにまで被害が出る可能性も出てくるだろう。
 それは流石にまずい。
 今更ながらに考えが足りなかったと反省している。

 だから俺は今――絶賛正座中だった。

「……そろそろ顔を上げて欲しいんだが?」

「本当に申し訳ないです。まずはヒアシさんに確認を取るべきでした……」

 俺は自分がやったこと自体には後悔はしていない。
 でも、それをする前にヒアシさんには話を通すべきだったとは思っている。
 一族の決まりをよそ者である俺が簡単に破ってしまえば、当然それをヒアシさんはよく思わないだろう。

 それに、俺の想定ではもう少し時間があると考えていた。

 ――仕方ない。
 少しだけ俺の考えをヒアシさんに伝えるとしようか。

 

   

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