大筒木一族の最後の末裔3

「あのさ、あのさ! オレってば、次はあっちに行ってみたいってばよ!」

 そう言って俺の腕を引っ張るのは、ついさっきまで一人でしょぼくれていた主人公――うずまきナルトだ。
 俺が声を掛けた時は警戒しているようだったが、少し話せば天真爛漫な笑顔を向けてくるようになった。
 しかし――

 ふと視線を感じて視線を向ける。
 そこには、通行人がまるで汚物を見るようにナルトと俺を睨んでいた。

 こんな視線を毎日浴びていたら、そりゃあんな顔にもなるわ。

「ど、どうしたってばよ? どこか痛いのか?」

 俺が考え込んでいると、ナルトが不安そうに俺の顔を見上げてくる。
 その瞳からは不安、恐怖といった感情が読み取れた。

 俺が黙り込んだから不安にさせてしまったようだ。

「はは、大丈夫だよ。ちょっと考え事をしてただけだから」

 そう言って少し乱暴にナルトの頭を撫でてやる。
 照れ臭そうに嫌がる素振りをしているが、決して振り払おうとはしない。そこそこ信用されているんだろう。

 そんな様子にほっこりしていると、ナルトの腹がグゥ〜と盛大に音を立てた。

「そういや、俺も飯食ってなかったな……。おっ、ちょうど良いからあのラーメン屋に行ってみようぜ。今回は俺の奢りだ、遠慮なく食え」

 なんせ、ナルトと一緒に歩いている時にわざとぶつかって来ようとした奴がいたからな。
 そいつのポケットからしっかり財布を抜き取ってやった。
 さっきチラッと確認してみたが、結構な額が入っていたのでしばらくは金に困らないと思う。

「いいのか!? あのラーメン屋は一楽っていうオレのお気に入りの店なんだってばよ!」

 ぱあっと嬉しそうに笑い、一目散にラーメン屋へと走っていった。

 あれ? そういえば一楽って、原作にもよく登場していた店だよな?
 あそこの店主はナルトが里の住民から冷遇されている時も、ナルトに負の感情を向けなかった数少ない中の一人だったはず。

 俺が原作を読んでいて、実は一番懐が広いのは一楽の店主なんじゃないか、と思ったほどの人格者だ。

「カムイ~、早く来るってばよ!」

「おう、今いくよ。……ったく、そんなに急がなくてもラーメンは逃げやしないって」

 そう言いつつもナルトが年相応にはしゃいでいる姿を見て、どこか安心している俺がいる。
 それだけ、あの公園で見た時の寂しそうな表情が頭にこびりついていた。
 それを振り払うように俺も一楽ののれんをくぐる。

「いらっしゃい! 好きなとこに座ってくれ」

 店内に入ると、そんな覇気のある声が店主から飛んできた。
 すでにナルトが席に着いていたのでその隣の席に座る。

「ナルトは何を頼むんだ?」

「オレはもちろんしょうゆラーメンだってばよ! 一楽のラーメンはどれも美味いけど、やっぱり一番はしょうゆラーメンなんだ!」

「へぇそうなんだ。じゃあオヤジさん、しょうゆラーメンを2つお願いします」

「はいよ! ちょっとだけ待ってくんな!」

 そう返事を返すと、手慣れた様子で調理が始まった。
 正直、店内に漂っているスープの匂いでよだれが出そうだ……。

「って、お前口からよだれが出てるぞ?」

 横に座っているナルトを見てみれば、だらだらと口からよだれを垂らしていた。
 持っていた手ぬぐいで口周りを拭いてやる。

「あ、ありがとう、だってばよ……」

 恥ずかしかったのか顔を赤くして俯いてしまった。えらく可愛らしい反応をするな。

「お水どうぞ~。ふふ、二人ともまるで兄弟みたいね。ナルトくんがあんなに楽しそうに話しているの、わたし初めて見たわ」

 タイミングよく従業員の女の人が水を持ってきてくれた。この女の人はたぶん、この店の店主の娘であるアヤメさんだったかな?
 ナルトのことを微笑ましそうに眺めている。

「か、からかうなよアヤメの姉ちゃん。カムイはオレの、オレの……」

 なにかを言いたそうに、チラチラと視線を俺とアヤメさんを行ったり来たりさせていた。

「あんまり俺の友達をいじめないでやって下さいよ。次も一緒にラーメン食いに来れなくなるじゃないですか」

 ナルトは俺の友達という言葉を聞いて驚いた表情を浮かべるが、すぐにこれ以上ないほどの笑顔になった。

「えへへ、アヤメ姉ちゃん。オレ、カムイと友達になったんだ! ……友達、か。にっしっし……」

「うふふ、そうなんだ。せっかくの常連さんが来なくなっちゃうのは寂しいから、今日からかうのはやめておくわね」

 嬉しそうな口調でそう言い残すと、アヤメさんはカウンターの中に入っていった。
 そして入れ替わるように店主がラーメンを出してくる。

「へい、しょうゆラーメンおまち! 熱いから気をつけて食べな」

「あれ? いつものラーメンより具が多くないかってばよ?」

「ナルトが友達を連れて来るなんて初めてだからな、俺からのサービスだ! 遠慮しないで食え!」

 ニカッと笑っているオヤジさんはやっぱり凄く良い人だな。
 こういうさり気ない優しさを出せる男って、すげぇカッコいいわ。

「さすがおっちゃん、太っ腹だってばよ!」

「ありがとうございます。……ほら、ナルトもお礼くらい言っとけ」

「お、おう。おっちゃん、ありがとうだってばよ。……へへ」

 俺がそう注意すると一瞬だけ目を丸くしていたナルトだったが、なにが嬉しかったのかニコニコしながら礼を言った。
 そして声を揃えるように『いただきます!』と言ってラーメンを食べ始める。

 ズルズルという音を立ててラーメンを啜るが、これ……めちゃくちゃ美味い!

「どうだ? うちのラーメンは美味いだろう?」

「はい! 今まで食べたこと無いくらい美味いですよ! これなら毎日でも食べられる」

「はっはっは、そんなに褒めても……チャーシューくらいしか出ねぇぞ」

「「わーい」」

 思わずナルトと同じようなガキみたいな反応をしてしまったが、それだけこの店のラーメンが美味いって事だ。
 カウンターの奥でアヤメさんが『やっぱり兄弟みたいだわ……』と、俺にまで微笑ましい視線を向けてきた気がするが、おそらく気のせいだろう。

 出されたラーメンをあっという間に完食し、そのあとにも別のラーメンを2杯も食べてしまった。
 ナルトも俺と同じだけ食べ、見て分かるくらいに腹が膨れ上がっている。

「も、もう食えないってばよ……」

「お前は食い過ぎだって。俺よりも体が小さいくせに同じだけ食うなんて、明らかに限界を越えてるだろ」

「おっちゃんの腕が上がったせいだってばよ……。今日食ったラーメンが一番美味かった!」

 はち切れそうな腹を見て呆れていたが、そこまで笑顔で美味かったと言われればそれ以上言えなくなる。
 店主やアヤメさんも苦笑いだ。

「って、そろそろ外が暗くなるな。家まで送ってやるからもう出るぞ」

「え~、もっと遊んでいたいってばよ!」

「わがまま言うんじゃねぇよ。またいつでも連れてきてやるからさ」

 最後まで駄々こねていたナルトだったが、また連れてくるという約束をするれば渋々納得した。
 ラーメンの代金を支払うと『サービスしてやるからまた来いよ!』と言われたので、俺もナルトも笑顔で頷いた。

「カムイ~、腹がいっぱい過ぎて動けないってばよぉ」

 店を出ようとすると、そんな情けない声が聞こえてきた。

「はぁ、しょうがない奴だな」

 ここに放置していくほど俺は鬼ではないので、ナルトを背負っていくことにする。
 ナルトを背負ってやると、背後から生暖かい視線が飛んでくるが……気にしないでおこう。

 正直、俺も腹がいっぱいでしんどいのだが、おぶさっているナルトがご満悦のご様子なので我慢してやるとする。

 

   

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