大筒木一族の最後の末裔24

「ヒアシさんは俺たちのご先祖様についてどこまでご存知ですか?」

 重苦しい空気が漂う中、俺はそう切り出した。

「我らのご先祖様というと、大筒木ハムラ様か。そうだな……実はあまり知らないんだ。随分前に、日向からは過去の記録の大部分が失伝してしまってな。知っている事と言えば、以前カムイ君から教えられた事くらいしか知らない」

 なるほど。
 つまり、月の大筒木一族が地上の人間を監視していた本当の意味は知らないらしい。
 それならまずは昔話から話していこう。

「ハムラ様はとある使命の為、我ら大筒木一族を率いて月へと旅立ちました。ただ、月へ向かった一族とは別に地上に残った者たちもいた。それが日向一族です」

「ふむ……そうなのか。つまり日向は大筒木の分家と言えなくもなさそうだ。それで、その使命というのは外道魔像とやらの封印だな?」

「ええ、そうです。でも大筒木一族には、もう一つ役目があったんです。ハムラ様は最期にこう言い遺されました。もしも地球で誤ったチャクラの使われ方をしていれば、その全てを破壊しろ、と」

「誤った使い方?」

「チャクラとは本来、人々の暮らしを良くする為に六道仙人と呼ばれるお方が広めたもの。決して人殺しの道具や……罪無き子供を縛る為のものではありません」

 大筒木一族には二つの役割があった。
 一つは外道魔像の封印、そしてもう一つが地上の人間の監視だ。
 遠い未来、地上にいる人間たちが変わらず戦争を繰り返しているのなら、一度転生眼という強力な兵器で滅ぼしてしまえという、ある種の審判を下す役割である。

「だからネジの呪印を破壊……いや、書き換えたという訳か」

「ええ、それがハムラ様の意志ですから。でもヒアシに無断で行なったのは早計でした。申し訳ありません」

 ――もちろん、そんなものは建前である。
 一応ハムラ云々って話は事実なんだけど、俺に都合よく脚色させてもらった。
 どうせ死んでるんだし、きっとご先祖様も子孫の為なら許してくれるだろう。
 俺が純粋な子孫なのかは微妙ではあるけど。

「それについては最初からあまり気にしていないから大丈夫だ。私自身も、宗家と分家の隔たりには思う所があったのだからな」

「……そう言って頂けると有難いですね」

 あれ?
 もしかしてそんなに怒っていないのか?

「だがその口ぶりからすると、君にとって木ノ葉はあまり居心地の良い場所では無さそうだね。この国は良くも悪くも大国としての期間が長すぎた。ハムラ様が望まれた世界とは程遠いだろう?」

 うぐっ、また答えにくい質問を。
 ……まぁいいか。
 せっかく機会だし、この際だから俺の方針をヒアシさんに伝えておこう。

「そう、ですね。俺はあまりこの里が好きじゃないです。いや、むしろ嫌いと言ってもいい。だからいずれ木ノ葉の里から出て行こうと思っています。もちろん、ヒアシさんに受けた恩はこの命に代えても返すつもりですけど」

「それは九尾の、ナルト君の待遇を見たからかい?」

 俺が最近ナルトと一緒にいる事を知っているようで、ヒアシさんが正解の答えを導き出した。

「ええ、そうです。俺はある程度、数年前に木ノ葉で起こった九尾事件のことを知っています。だから尚更、ナルトが里の連中から受けている仕打ちが理解できない」

 かつてナルトの父である四代目火影は、木ノ葉の里で暴れる九尾を自分の息子に封印した。
 ならば里を救ったのは四代目火影ではなく、その身に九尾を宿したナルトの方だろう。
 にもかかわらず里の人々はナルトを迫害している。
 石を投げ、暴言を吐き、終いには殺そうとする者まで現れる始末だ。

 原作のナルトはそれを一人で乗り越えていたが、あれは俺が見た限りとてもじゃないが子供一人が背負い切れるものではなかった。
 そんなものを幼いナルトに向けるなど、まさに木ノ葉の『卑の意思』であると言わざるを得ない。

 そんな場所を好きになれるものか。
 木ノ葉の里には原作キャラを見に来るという軽い気持ちで訪れたが、見たくないものまでたくさん見てしまった。
 そして見てしまった以上、俺にはナルトを一人にすることなどできない。

「ではどうするつもりだ? ナルト君を見捨てて、君だけどこか遠くに逃げるのか?」

「もちろんナルトも連れて行きます。あいつがそう望めば、ですけど」

「馬鹿なっ、それはこの国を真っ向から敵に回すと言っているようなものだぞ!?」

 俺の考えを慌ててヒアシさんが止めてくる。
 九尾が封印されているナルトは良くも悪くも特別だ。
 人柱力のことは毛嫌いするくせに、いざ里を出るとなれば木ノ葉の里は総力を挙げて全力で阻止してくるだろう。
 そうなれば武力衝突は避けられないので、個人で対抗するなど無謀である。

 普通ならね。

「全て承知の上です。わかった上で、木ノ葉を敵に回しても良いと思ったんですよ」

「……そこまで自信があるということは、カムイ君には何か切り札があると思っていいのかね? それこそ――木ノ葉と正面からやり合えるだけの何かが」

「俺が持つ力を使えば木ノ葉を更地にできる、そう言えば納得できますか?」

「は?」

 ヒアシさんが珍しく呆けた表情を見せた。
 まぁ、いきなり突拍子も無いことを言われたのだから無理もないか。
 俺の転生眼の能力を使えば里を滅ぼすなんて余裕で出来てしまう。
 なんせ元は地上の人間全てを滅ぼす為の力なんだからな。

「もちろん、そんな事をするつもりはありませんから安心してください。これはあくまで最終手段です」

 そう言って俺は両目の転生眼を発動させた。

 

   

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