大筒木一族の最後の末裔25

 …………ふぅ。
 精神的に色々と疲れたなぁ。
 ヒアシさんの部屋から出た俺は大きく息を吐き、体をポキポキと鳴らして固まっていた筋肉をほぐす。
 まさか今日、あんな話をヒアシさんとすることになるとは夢にも思わなかったよ。
 ネジやヒナタの二人と仲良くなれて、すごく良い日になる予定だったんだけど……俺の不用意な行動でぶち壊しだ。

 まぁでも、たぶん俺以上に今頃ヒアシさんは頭を抱えているだろうね。
 自分が目を掛けていたやつが、世界を滅ぼしかねない力を持っているなんて、流石に想像もしていなかったと思うから。
 これについてはもう少し時間を置いて、少しずつ知ってもらおうと思っていただけに俺も少し不安だ。

 ……最悪、転生眼のことを木ノ葉に報告されると逃げるしかないし、早いうちに色々と準備しておく必要があるかもしれない。
 かなり気疲れしてしまったので、とりあえず今日は帰ろう。

「カムイさん!」

 屋敷から出ていこうとするが、そんな俺を呼び止める声がした。
 そちらに振り向くと、ネジとヒナタが泣きそうな顔で駆け寄ってくる。

「おいおい、どうしたんだ二人とも。どっちもそんな辛気臭い顔をしてさ」

「俺の呪印を書き換えたから、何か貴方に不都合なことが起こったのでしょう? 俺の所為で……本当にすみませんでした」

「カムイさん、だいじょうぶですか?」

 あー、どうやら心配してくれていたらしい。
 こうして考えてみると、二人とも今日一日だけでずいぶんと俺に懐いてくれたもんだ。
 ネジなんて初めは射殺さんばかりに睨んできていたのに、今ではこっちの心配をしてくれているし、ヒナタはヒナタで本当に天使みたいな可愛さで俺を癒してくれる。
 この子らの前では不甲斐ない姿なんて見せられないよな。

「ははっ、俺は大丈夫だからそんな泣きそうな顔をするな。ヒアシさんとちょっと話をしていただけだって。話があまりにも長いから疲れちゃってさ。今日はもう帰るけど、また一緒に遊ぼうな」

 出来れば俺だけじゃなく、この二人にはナルトととも仲良くして欲しい。
 ま、こればかりは色々と複雑な事情があるから、ゆっくり慎重にやっていこうと思っている。
 大人の事情ってやつに子供を巻き込みたくはないし。

「あぁ、それとネジ。お前の頭にあった呪印だけど、ヒアシさんに確認したらそのままで良いってさ。だからって訳じゃないけど、ちゃんとヒナタと仲良くするんだぞ?」

「……はい! もちろんです!」

 ネジはまっすぐ俺の目を見てそう言った。
 これなら原作みたいに兄妹の仲が悪くなることなく、協力して切磋琢磨し合えるだろう。

「だってさ。良かったな、ヒナタ」

「はいっ」

「うんうん、素直でよろしい!」

 やっぱり癒されるなぁ。
 二人と話しているだけで、さっきまでの疲れが吹っ飛んでいく気がする。
 これからも兄妹仲良くしてもらいたい。
 子供たちがギスギスしている所なんて、あまり見たいものではないしね。

「んじゃ、俺は帰るわ。そろそろ紅さんも迎えに来てくれてる頃だと思うから、待たせるのも悪い」

「腕を磨いておくので、また稽古を付けてください!」

「また会いにきてくださいね? まってます!」

「ああ、また来るよ」

 そうしてネジとヒナタと別れ、俺は日向の屋敷を出た。
 もうすぐ日が暮れそうな夕暮れの景色を見る限り、かなり長い間ヒアシさんと話し込んでいたらしい。
 そりゃ疲れるわけだ。
 腹も減ったし、早く紅さんの料理を食べて眠りたい……。

「あら? ずいぶん疲れてるみたいね。どうかしたの?」

 紅さんは屋敷のすぐ側で待っていてくれていたが、俺の顔を見た第一声がそれだった。
 やはり彼女の目から見ても今の俺は疲れているように見えるみたいだ。
 流石にあの二人の前ではそんなみっともない姿を見せられないから気張っていたけど、紅さんの顔を見たら何故か安心して疲れが表に出てきてしまったな。

「ちょっと色々とありまして……とりあえず今日の晩ご飯はハンバーグがいいです」

「別に良いけど、この前も食べたばかりじゃない?」

「……駄目、ですか?」

 半分ふざけて、紅さんをうるうるした目で見つめてみると、彼女は笑って『いつもより子供っぽくなってない?』と言われてしまった。
 いいじゃんハンバーグ。
 子供が好きなメニューだけど、今の俺は見た目がまだ中学生くらいだからセーフでしょ。

「気にしないでください。疲れ過ぎて変なテンションなっているだけですから」

「それじゃあ早く帰ってご飯にしましょ。私も今日は疲れちゃったわ」

 おや、俺だけじゃなく紅さんも疲れているみたいだ。
 普段なら『お揃いですね!』なんて言ってみたりするかもしれないが、今日はそこまでの元気は既に無い。
 大人しく帰路につこう。
 精神的に参っている状態で見る夕焼けは、いつもより綺麗に見えた。

「紅さん、世界平和って難しいですね」

「……頭でも打ったの?」

 夕陽を眺めながら黄昏れている俺を、紅さんは不思議そうに首を傾げて見ていた。

 

   

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