ヒアシさんに色々と暴露してから数日が経過した。
なので今の俺の立場というか、現状を改めて整理しておこうと思う。
とりあえず日向一族との関係は思いのほか良好だ。
というのも、あの日の翌日に俺は何事も無かったかのようにネジやヒナタに会いに行き、普通に稽古とか勉強とかを教えていたからな。
俺の姿を見たヒアシさんは流石に驚いていたようだが、仲良く二人と遊んでいる俺を見て苦笑していた。
その後少しだけ話したんだけど、どうも俺を見たら難しく考えている自分が馬鹿らしくなったらしい。
はっはっは、俺の行動指針は至極単純だからそう思うのも無理はない。
ちょっとだけ考えることが多くて悩んでいたけど、改めて考えてみればヤバくなったら月に逃げれば良いだけだからさ。
もしくは転生眼で更地にするか、だな。
だから難しく考えずに、欲望に忠実に好きな事をやってやろうということになった。
我ながらかなり子供っぽい開き直りだけど、カムイの身体は中学生くらいだからそんなもんだろう。
ナルトとネジ達の顔合わせもこの数日中に済ませてある。
九尾の人柱力であるナルトに対して、二人が一体どういう感情を抱くのか正直わからなかったが、俺というフィルターを通して順調に少しずつ関係を深めていっていると思う。
ナルトは本来、純粋無垢で他人から好かれやすい性格だ。
里の大人たちから向けられる悪意によって多少拗れている部分もあったが、最近ではすっかり鳴りを潜めているので、ネジとヒナタも今ではそれなりに心を許しているように見える。
まぁ、ネジの精神年齢が飛び抜けて高いから、手のかかる弟が増えたみたいな感じだろうけど。
そして今日も、そんな子供三人組と稽古をすることになっていた。
「――カムイ! 今日こそオレたちが一本取ってやるってばよ!」
ちっちゃい手足をジタバタ動かしながら、ナルトはそう言って俺を指差した。
その後ろには呆れたような表情を浮かべるネジと、オロオロするヒナタの姿もある。
「おい、ナルト。俺とヒナタ様を勝手に一緒にするな。昨日もお前が適当に動き回るせいで、それをサポートするのが大変だったんだ。せめて少しは考えてから物を言え」
「こ、今度こそ大丈夫だってばよ。実はさ、秘策があるんだ」
「……秘策?」
「ああ、俺の影分身を使って、ごにょごにょ――」
何やら三人で作戦会議を始めてしまった。
話し合うのはいい事だけど、それを倒そうとしている相手の前でするのはどうなんだ。
俺の聴覚だと声をひそめる程度では拾ってしまう恐れがあるので、出来るだけ意識を逸らして聞き取らないようにするとしよう。
せっかくナルトが作戦を考えたんだから、このくらいはな。
ただ、手を抜いてわざと負けるなんて事はしない。
そんな事はこいつら自身が望んでいないし、手を抜いていた事がバレたら主にナルトとネジの二人から怒られそうだからな。
もっとも、今からやる稽古は原作でカカシ先生が行った鈴取りゲームだから、初めから対等な試合という訳ではないんだけど。
「……なるほどな。馬鹿正直に突っ込んでいくよりは良いだろう。ヒナタ様はどうですか?
「わ、わたしも良いと思うよ。ナルトくんの考えた作戦で」
「にしし! だろ? だろ? オレってば、昨日の夜からずっと考えたんだ。これなら絶対にカムイに勝てるってばよ」
おっ、どうやら話がまとまったらしい。
自信満々のナルトに、いつも通りクールなネジ、そして少し緊張しているヒナタが話し合いを終えて俺の方に向き直った。
「相談はもういいのか?」
「大丈夫だってばよ。カムイの方こそ、倒される準備は出来たのかってばよ?」
「ははっ、そりゃ怖い。一体どんな作戦を考えたのか、今から楽しみだ」
◆◆◆
カムイたちが訓練している頃、ヒアシは木ノ葉隠れの里の長――猿飛ヒルゼンと向かい合っていた。
今のヒルゼンはナルトの前で見せている好々爺のような雰囲気ではなく、目に鋭さを宿した火影としての姿を表に出している。
彼はかつて『忍の神』や『プロフェッサー』と謳われた傑物だ。
そんな人物と一対一で相対すれば、疾しいことが有ろうと無かろうと緊張で顔が強張ってしまうのも無理はない。
「して、ヒアシよ。そろそろあの者……カムイという少年のことを話してくれないか?」
ゆっくりと吐き出されるその言葉に、ヒアシはピクリと反応してしまう。
心なしか部屋の重力がいつもより重く感じられ、身体中から汗が流れ出てきそうになる。
「カムイは……我ら日向の同胞です」
だが、ヒアシは湧き上がってくる弱気な感情に蓋をした。
もう決めたのだ。
日向の未来にカムイは必要不可欠であり、彼もまた自分が命を賭しても守らねばならない存在であると。
「同胞?」
「はい。確信が出来なかったので火影様には黙っていましたが、実はカムイは日向の血を引く一族の生き残りなのです。はるか昔に交流が断たれてしまったので動向は全く知りませんでしたが、ここ数日で確信が持てました。なので、今後も彼の身柄は我ら日向が責任を持って預からせて頂きたい」
恐らく、カムイの持つ本当の力をヒルゼンに伝えてしまえば、木ノ葉の里は即座に確保か排除に動くことだろう。
確保ならばまだ良い。
多少の自由は奪われるが、それでも殺されることは無いのだから。
しかし、カムイ自身が自由を奪われることに納得すると思えなかった。
大筒木一族の再興を目指す彼は何者にも縛られることなく、たとえ相手が大国である火の国でも戦う道を選択するだろう。
カムイにはそれだけの力がある。
そして木ノ葉の里は、確保できなければ躊躇なく排除に動く。
ヒルゼンは争いを好まない性格をしているが、その後ろにいる志村ダンゾウという男はそうではない。
カムイが少しでも里に不利益を齎す可能性を感じれば、独断で動いて全てを終わらせてしまう。
ヒアシはダンゾウをそういう人物だと認識していた。
「あの少年が、のぉ。報告ではナルトとも接触しているようじゃが、それに何か意図はあるのか?」
「……無い、と思われます。カムイはナルトの事を人柱力ではなく、ただ一人の人間として接していますから」
「ふむ、確かに最近のナルトは明るくなった。大人を悩ませていた悪戯もてんで無くなったし、それはきっとあの少年の影響じゃろうて」
ヒルゼンの雰囲気が少しだけ和らいだ。
それを感じ取ったヒアシもホッと安堵するが、それもほんの束の間のことだった。
「――ヒルゼン、儂もその話し合いに加えてくれ」
「ダンゾウか……」
ヒアシが懸念していた相手、志村ダンゾウが乱入してきたのだった。