大筒木一族の最後の末裔27

 俺の前には三人の子供が転がっている。

「くっそぉーー! またカムイに完封されたってばよ!」

「流石です、カムイさん。俺たち三人相手でも軽々と戦い、更には手加減する余裕まであるとは……お見事でした」

「ありが、とう、ございました……」

 ナルト、ネジ、ヒナタはそれぞれ地面に伏して大量の汗をかいていた。
 対する俺は汗は多少かいているものの、涼しい顔を浮かべながら微笑む余裕がある……ように見せている。

 実はネジが言ったようにめちゃくちゃ余裕があった訳でも無いんだよね。
 俺の体術は日々精進しているものの、残念ながらまだまだ未熟な部分が多い。
 忍術を使わないで戦うとなればギリギリの戦いになるのは当然だった。
 子供相手にギリギリとは情けなくもあるんだけど、そもそもこの三人はまったく普通の子供の枠には入っていないので無問題である。

 そりゃ忍術やら転生眼を使えば余裕で対処できる自信があるけど、それは流石に大人気ないというものだろう。
 子供相手に必死で余裕ぶっている奴が何を言っているんだという感じではあるが。

「ナルトとヒナタが囮になって、最後にネジが俺の経絡系を狙って攻撃……か。中々悪くない作戦だったぞ。ただ、ナルトが好き勝手に動くから、ヒナタがそのサポートで手一杯になっていた。次はそこを改善すればもっと全体的に動きが良くなる筈だ。そうすりゃあ、次はこの鈴も取れるかもな?」

 鈴を指でクルクルと回しながら俺が三人にそう言うと、彼らはそれぞれ別々の表情を浮かべた。

「うっ、ごめんだってばよヒナタ。オレが足を引っ張っちまってたみたいだ……。次は気を付けるってばよ」

「わ、わたしなら全然大丈夫だよ! だから次も一緒にがんばろ?」

「ヒナタ様、そいつは甘やかすとすぐ調子に乗ります。ここは少しくらいキツい言葉で――」

 直情型のナルト、冷静沈着なネジ、そして二人の緩衝材となるヒナタ。
 ナルトはネジに叱られてシュンとしているが、どこかこの時間をも楽しんでいるようにも見えるし、ネジ自身も実は結構世話好きな一面があるようで嫌がってはいないようだ。
 この三人は中々良いトリオだと思う。

「俺ももっと強くなる必要がある……。カムイさん、もう一度お願いします!」

 するといち早く体力を回復させたネジがそう言ってきた。
 いやさ、元気があって良いんだけどちょっとは休憩しようよ。

「わかったわかった。もうすぐ紅さんが弁当を持って来てくれるだろうから、それまで軽くなら付き合ってやるよ。二人はどうする?」

「当然オレも参加するってばよ!」

「わたしもお願いします……!」

「あいよ。それじゃあ――かかって来い」

 指でクイクイっと挑発してやると、さっきまでの疲れは何だったのかと問い詰めたいくらいの速度で突っ込んで来た。
 ……いやどんだけタフなんだい君達は。

 三人の秘められたポテンシャルに戦々恐々しながらも、影分身による数の暴力を跳ね除け、強力な柔拳をいなし、必要最低限の動作で戦闘を続けていく。
 そうでもしないと途中で体力が切れそうだからね!
 これでもかなりスタミナはある筈なのに、子供たちのエネルギーには敵わないらしい。

 いや、子供というかこの三人が異常なのか。
 素質だけなら木ノ葉でもトップクラスだろうし。
 まったく、末恐ろしいガキンチョ共である。

 そんな事を考えながら十分ほど相手をしてやると、待ち望んでいた人の気配が徐々に近付いて来ているのがわかった。
 ふぅ……これでようやく終われるな。

「よし、そこまで! 紅さんが来たから終了だ。ストレッチしてから川で手を洗って来い」

『はい!』

 皆んなも空腹には勝てないようでパタリと攻撃をやめ、しっかりとストレッチをしてから我先に川の方へ走って行った。
 そして、その反対側の森から紅さんが弁当片手に現れる。

「お疲れ様、カムイ。あの子たちの面倒を見るのは大変でしょうに。大丈夫だった?」

「まぁ、俺も結構楽しんでいるんで大丈夫ですよ。俺よりも紅さんの方が大変じゃないですか? 人数分のお弁当を用意してもらうなんて凄く手間が掛かりそうですし……」

「私は料理が趣味みたいな所があるから。それに――」

「腹減ったってばよ!」

 紅さんの言葉を遮るように元気一杯のナルトが突撃してきた。
 てか早くね?
 もう終わらせてきたのかよ。

「フフッ、ナルトはいつも元気ね。さぁカムイ、早くあなたも手を洗ってきて頂戴」

「はーい」

 

 ◆◆◆

 

 俺が川に到着すると、そこにはヒナタ一人だけが残されていた。
 あれ、ネジがヒナタから離れるなんて珍しいな。

「どうしたんだヒナタ。早くいかないと昼飯をナルトに全部食われちまうぞ?」

「あ、カムイさん。……うん、わかった。もう行くね」

 すたすたと歩いていこうとするが、一瞬だけ見えたその横顔が気になって呼び止める。

「どうかしたか?」

「……わたし、足手まといじゃなかったかな?」

 彼女の口からポツリとそんな言葉がこぼれた。

「ん、それってさっきの訓練のことか?」

「うん」

 改めてヒナタをよく見てみると、いつもより雰囲気が暗い気がする。
 普段から口数が多いわけじゃないが、それでもちゃんと喜怒哀楽があるから落ち込んでいればすぐにわかる。

「ヒナタが足手まといなわけないだろ。ヒナタが頑張ったおかげで、ナルトやネジが自分の力を存分に発揮できていたんだからな。ナルト一人だけだと足止めすら出来なかっただろうよ。そして、多分ネジがヒナタの役割だったとしても、さっきほどは上手くはいかなかったと思うぞ」

「本当に?」

「本当だよ。訓練のことで嘘なんか吐かないさ」

 俺がそう言ってもヒナタの表情はあまり晴れない。
 うーん、これは本当の事なんだけどな。
 ふむ……。

「ヒナタ、もしかして自分に自信が無いのか?」

「……うん。わたしって臆病だし、何をやってもネジ兄さんには勝てない。それに、きっとナルトくんにもあっという間に追い抜かれちゃう。

 俺は俯くヒナタの顔を下から覗き込むようにして視線を合わせる。

「そっか。そんなに自信が無いなら、俺が保証してやるよ。ヒナタは将来、強くて美人なくノ一になれる。絶対だ」

 確信を持ってそう言い切れる。
 だって俺は知っているから。
 強くて美人な未来の日向ヒナタを。

 

   

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