大筒木一族の最後の末裔28

 三人組をそれぞれの家に送り届けてから、俺は紅さんの部屋へと戻ってきた。

「くぅー! 今日も疲れたなぁ」

 俺はソファーに寝そべってグッと伸びをした。
 行儀は悪いが、それを注意する人は今晩の買い出しに行ってくれているので大丈夫だ。
 しばらくはこうしてゆっくりゴロゴロ出来る。

 それにしても、今日の特訓で一番成長したのは間違いなくヒナタだったな。
 昼飯を食べたあとのヒナタは何か吹っ切れたみたいに、まるで別人みたいにキレのある動きで俺に打ち込んできていた。
 どうもあの子は自分に自信が無いようだったけど、軽く励ましてあげるだけでまさかあそこまで化けるとは思わなかった。
 元々素質はあると分かっていたが、気持ちひとつでああも成長するもんだと感心させられてしまったよ。

 まだ少し気弱な性格が見え隠れしているが、遠からずそれも解消されていくだろう。
 もっとも、根っこの部分の性格は変わっていない。
 他者を思いやる優しい心は変わらずにあるし、戦闘以外では割と今までと変わっていないように見えるからな。

「……って、いつのまにか俺、子供の相手しかしてないじゃん」

 ハーレム計画どこいった?
 まぁ、別に今すぐどうこうって訳じゃないからいいか。
 それを目指す理由ってのも、実は特に無いしな。

 強いて言うなら、ハーレムに憧れがあったという至極単純で不純な理由だ。
 男だったら美人ばかりの世界に転生すれば一度は頭をよぎるんじゃないだろうか。
 幸運にも、俺にはそれを成せるだけのチートを持っていたから目指してみようと思った。
 ただそれだけ。
 熱狂的なNARUTOのファンだったからとか、実は愛に飢えているからだとか、そういうのは全くない。

 というか、今は外見も精々中学生くらいだから、俺の恋愛対象に入る人にはほとんど相手にされないだろうけどさ。

「ふぁあぁ~。あー、色々考えてたら眠くなって来やがった……」

 紅さんが帰って来るまで寝ているか?
 いやいや、買い出しに行って貰っておいて俺だけ寝ているってのは流石に悪いよな。

 ウトウトしながらボケっとしていると、ドアの向こう側からぞろぞろと何人かが向かって来ているような気配がした。
 身体に残っていた眠気がスーッと消えていき、すぐに頭が冴えていく。
 そしてドンドン、と力強くドアを叩く音によって完全に眠気が吹き飛んだ。

「――居るのは分かっている。早く出てこい」

 剣呑な声。
 お隣さんが訪ねて来たとかではないらしい。

「……ヤクザかよ」

 思わずそんな感想が出てしまうくらい、今の状況は前世で見たテレビに酷似していた。
 出来ればこのまま居留守を使いたいんだが、どうやら連中は俺が中にいることをわかっているようなのでそれは無理だ。
 俺はため息を吐きながら扉を開いた。

「やっぱり暗部、ですか」

 外に居たのは動物を模った仮面を付けた男たち。
 その仮面越しからでもかなりの威圧感がヒシヒシと感じ取れる。
 木ノ葉に来たばかりの頃の俺なら、彼らが放つこの独特の空気感にビビって足がすくんでいたかもしれない。
 とてもじゃないが和気藹々って感じではなく、下手なことをすれば即座に殺し合いへと発展しそうな雰囲気だった。

「大筒木カムイ、火影様とダンゾウ様がお呼びだ。我らと共に来てもらおう」

 そして、暗部の男は俺に向かってそう言い放った。

「火影様とダンゾウ様、ねぇ。火影様はともかく、ダンゾウ様って人とは会ったことがない筈ですけど、一体どういうお方なんですか?」

 志村ダンゾウ。
 その男のことは前世の記憶で知っている。
 木ノ葉の里における闇と呼んでも差し支えがない人物で、いずれ起こる原作NARUTOの中でも最悪の事件の首謀者である人物。
 俺が密かに警戒していた男でもある。

 ただ、実際に会ったことは無いので怪しまれないように尋ねておいた。

「お前がそれを知る必要は無い。我らが受けた命令は大筒木カムイを連れて行くことのみ。もしも抵抗するのであれば、その時は武力によって連行させてもらう」

「……問答無用って感じですね。俺の監視役である紅さんは、この事を知っているんですか?」

「向こうにも我らの仲間が報告に行っている筈だ」

「ずいぶん行動がお早いようで。まるでついさっきまで俺のことを監視してたみたいですね」

「素性もよくわからないお前を、里の中で野放しにしておく筈がないだろう」

「あはは……これは手厳しい」

 まぁ、そうだろうな。
 紅さんは監視役というよりも、本当に俺の世話係みたいな感じだった。
 今みたいに別行動を取る事だって何度もあるし、本当の監視役みたいなのは別にいると考えた方が自然だ。
 時々変な視線を感じることが多々あったしな。
 流石に四六時中ベッタリ張り付いていた訳ではないだろうが、暗部の忍が監視に付いていたと言われても別に驚かない。

「ええ、わかりましたよ。俺も事を荒げたくはない。大人しく付いて行くので、平和的に行きましょう」

「それで良い」

 ついさっきまで気持ち良くソファーで寛いでいたのに、コイツらの所為で色々と台無しだな。
 せっかくの良い一日が、これで最悪な日になってしまった。
 これって、もしかしなくても結構なピンチかもしれない。

 

   

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