大筒木一族の最後の末裔29

「――貴様が大筒木カムイという小僧か?」

 部屋に入るなり、そう言って鋭い眼光を向けられる。
 そんな視線を向けてくるのは右目と顔の上半分を包帯で覆った六十代くらいの男で、彼こそが木ノ葉の闇を担っている志村ダンゾウだった。

 アニメや漫画で見たまんまの容姿だが、僅かに開かれた隻眼の瞳は実際に見ると比較にならないくらい冷たくて鋭い。
 迫力は想像していたよりもずっとある。
 ビビって足が竦むほどではないのが幸いだな。

 そして、そのダンゾウの隣には火影である猿飛ヒルゼンの姿もあった。
 この人とは以前一度だけ顔を合わせているんだけど、その時は険悪な空気にはならなかったと記憶している。
 俺としては出来ることなら平和的に話し合いたいんだが……一体どんな話を聞かされるのかね。

「ええ、俺が大筒木カムイです。お会いできて光栄ですよダンゾウ様。そして火影様、火影様が木ノ葉での滞在を許可してくれたお陰で、自分は楽しい毎日を過ごさせてもらっています。改めてお礼を言わせてください」

「ふぉっふぉっふぉ、構わんよ。ワシの方こそ、お主に礼を言いたいくらいじゃからのぉ」

「火影様が、ですか?」

「カムイ、お主のおかげでナルトがずいぶんと明るくなった。悪さばかりしていた悪戯小僧が、今ではすっかり大人しくなってのぅ。いや、相変わらず元気なのは元気なんじゃが、そのエネルギーを修行に向けているようで安心しておったのだ」

 ……なるほど。
 その笑顔の裏で何を考えているのかまではわからないが、少なくともナルトの件に関しては俺に悪感情を抱いていないらしい。
 まぁ、その隣にいるダンゾウは俺のことを気に食わない様子だけど。

「あの、それなら俺はどうして呼ばれたのでしょうか。先ほどからダンゾウ様に睨まれている理由もイマイチよくわからないのですが……」

「あぁ、それは――」

「ヒルゼン、そこからは儂の方から話そう」

 ダンゾウはヒルゼンの言葉を遮って口を出してきた。
 再びこちらを見下したような視線を向けられ、反射的に腰が持ち上がりそうになるのを何とか抑える。
 ……まったく、なんつー目だよ。

「単刀直入に言う。大筒木カムイ、お前には木ノ葉の支配下に入ってもらおう。つまり、正式な忍として雇ってやる、ということだ」

 俺を、木ノ葉の忍に?
 そう言われるのは少し予想外だった。
 日向の当主であるヒアシさんが身元を保証してくれているとはいえ、俺みたいな怪しい奴を懐に置こうとするとは思わなかったのだ。
 いや、怪しいからこそ手元に置いておくのか。

 とりあえず俺は、率直に思った疑問を口にしてみる事にした。

「俺を木ノ葉の正式な忍に……ですか。それは光栄なお話ですね。ただ失礼ですけど、俺が他里のスパイだとは考えられないのですか? 自分でも言うのも何ですが、俺ってかなり素性の怪しい奴だと思いますけど」

「確かに貴様は怪しい。だが、貴様は他里から送り込まれた間者にしては目立ち過ぎている。スパイならもっと大人しい行動をするだろう。加えて、貴様からは裏の人間特有の気配が全くない。実力はあるようだが、本物の殺し合いの経験はないのだろう?」

「……その通りです」

 俺はまだ人を殺したことはない。
 いずれは通る道だろうが、進んでしたい行為ではなかった。
 その道のプロであるこの二人には、それはお見通しというわけか。

「それにのぉ、実はお主には紅以外にも監視を付けておったのじゃが、怪しい素振りを少しも見せなんだ。故に、この話をしているんじゃよ。黙って監視を付けたのは悪かったの。許せ」

「いえ、火影様の立場を考えれば当然の判断だと思います」

 ま、監視には気付いていたけどさ。
 転生眼の索敵から逃れる術は無いんだから、俺のことを監視している人がいることくらい分かっていたよ。
 変に警戒されたくないからずっと無視していたんだよね。
 この様子だと、俺が気付いていた事には気付いていないようだ。
 ……そういう演技の可能性も考えられるけど。

 でもなぁ、正直に言うとこの話はあまり気が進まない。
 この前ヒアシさんにも言ったけど、俺は木ノ葉の里ってあまり好きじゃないし、手を貸すつもりなんて無いから所属とかしたくないんだ。
 流石にそれをこの二人の前で言うつもりは無いけど。

 それに、これは嫌だからといって断れるとか、そう簡単なものではなさそうだ。

「……もし断ったら、俺はどうなります?」

「追放だ」

 またもやヒルゼンではなくダンゾウが答えた。
 どうもこのおっさんは何が何でも俺を木ノ葉の里から追い出したいらしい。

「それは、ずいぶんと急な話で」

「当然だろう。貴様のような素性も知れぬ浮浪人をこのまま里に留めておけば、いずれ厄介な問題へと発展する可能性がある。それをみすみす見逃すことなど出来ん」

 首輪を付けるのなら置いてやるが、拒否するなら消えろという事か。

「ワシは個人的にお主のことを気に入っているんじゃがのぅ。こやつがそう言って聞かんのだ。すまぬが、どちらか選んで欲しい。なに、もしも木ノ葉から出て行くことを選んだとしても、すぐに追い出すようなことはせんから安心せい」

 そう言ってヒルゼンは好々爺のような笑みを浮かべた。

 いやいや、その話を聞いても何も安心できないんですけど。
 だってそれって木ノ葉を去れば刺客を向けられて暗殺されたりするやつじゃないの?
 ヒルゼンにその気がなくてもダンゾウなら普通にやってきそうだ。
 というか、原作での立ち回りを考えればほぼ間違いなくやられると思う。

 うーん、ここはひとまず話を受けておいた方が無難か。
 刺客を送り込まれるのはそこまで問題じゃないけど、もう少しナルト達の成長を見届けてやりたい。
 関わった以上、最低限それくらいはする義務がある。
 ま、義務とかを抜きにしても、単純に俺がそうしたいと思っているというのもあるが。

 それに、俺にはどうしようもないくらいの状況に追い込まれれば、ほとぼりが冷めるまで月に避難するという手段がある。
 だから一度頷いておいて嫌になれば消えれば良いか。
 最悪、転生眼の行使だって厭わないつもりだし。

「俺にとっても悪い話じゃないですね。ただ、俺が木ノ葉の正式な忍になった場合、一体どういう任務が与えられるのか聞いてもいいですか?」

「それは適性を見てから決める事になるだろう。しかし報告にあった実力が事実なら、いずれは上忍が請け負うような任務が割り振られるかもしれん。無論、しばらくは監視を付けさせてもらうがな」

 危険な任務をやらされる可能性もある、と。
 まぁ、それに関しては仕方ない。
 こんな世界だから荒事なんて珍しくもないだろうし、

「――わかりました。それじゃあ引き続き、木ノ葉にお世話になるとします」

 色々考えた結果、俺ははっきりとそう口にしたのだった。

 

   

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