大筒木一族の最後の末裔30

「流石に今日は色々あって疲れたなぁー。いきなり暗部の奴らが現れて、有無を言わせず連行された時は少しビビった」

 ソファーの上でくつろぎながらそう愚痴る。
 まさか俺が木ノ葉の忍になるなんて思いもしなかった。
 今すぐにここから出て行くつもりは全く無かったとはいえ、この里の為に働くとか考えてもみなかったからな。

 まぁ、そこは里の為じゃなくて自分や知り合いの為ってことで納得するしかない。
 木ノ葉にはナルトや紅さん、それに日向一族の人たちがいるからね。
 俺の所為でその人たちが不幸になるとかは絶対に避けなければならないだろう。

 すると、食器の片付けをやってくれた紅さんが台所の方からやってきた。

「ホントよ。急に火影様とダンゾウ様のお二人にカムイが呼び出されたって聞いて、私は心臓が止まりそうなくらい驚いたんだから。……でも、ホントに木ノ葉の忍になって良かったの?」

「もう決めましたからね。今更やっぱり嫌なんて言えませんよ。それに、木ノ葉の忍者になればずっと紅さんと一緒にいれるじゃないですか。そう考えると別に悪くないかなって」

「はいはい、そりゃどーも」

 相変わらず俺の言葉がまったく響かない紅さんである。
 今の俺はガキの身体だけども、少しくらいは反応して欲しいものだ。
 カムイ君のお顔は将来有望そうなイケメンフェイスなんだけどな。

 それはともかく、俺は今日から木ノ葉の忍となった。
 半ば強制ではあったが、俺の目的を達成する為にもそう悪いことではないだろう。
 あの後、手続きやら何やらで1時間ほど部屋の中に拘束されてしまい、解放されたのは日付が変わりそうな時間帯だったのは想定外だったけど。

 その間ずっと座っていた所為で身体中がバキバキになってしまったし、前世では割と何時間でもジッと座って作業するというのも苦手ではなかったんだが、今ではすっかりその手のことが受け付けなくなってしまったらしい。
 ただ、そんな長い間もヒアシさんと紅さんは心配して別室で待機していてくれたようで、俺が二人の前に姿を見せると、それぞれ安堵した表情を浮かべてくれた。

 ヒアシさんに庇いきれなかったことを謝られたりしたな。
 庇いきれなかったと言っても、彼は俺が不利になるようなことはひとつも喋っていないようだし、相手があの二人ならそれだけで十分過ぎるくらいの誠意を感じる。
 だからむしろ、今回は俺の方こそ危険な真似をさせて申し訳ないと思ったくらいだ。
 今後とも仲良くやっていきたいと強く感じた。

 それで紅さんは……やはりというか、ずいぶん心配を掛けてしまったらしい。
 普段から彼女は余裕のある女性というイメージだったのだが、その時の慌てようはとても驚いた。
 自分が思っていた以上に心配を掛けてしまったのだと、俺が心から反省したほどだ。

「あれ、お酒飲むんですか? 珍しいですね」

「こんな日くらい飲まないとやってられないわ。人がこんなに心配したのに、当の本人はケロッとしていて、出会い頭に『あ、二人ともこんなところで奇遇ですね』なんて事を言ってくるんですもの」

「あはは……ご心配お掛けしました」

 紅さんが向けてくるジト目に耐えられず、俺は降参ですという意味を込めて頭を下げた。

 ちなみにこの世界、二十歳を越えていなくても酒も煙草もオッケーらしい。
 あまりにも幼いと周りから止められたりするのだが、大体15歳くらいになればなんの問題も無いのだとか。
 だから年齢的には未成年の紅さんが飲酒しても何ら問題は無い。

 まぁ、各地で争いが絶えない世界だからな。
 そっち方面の法律というのはまだまだ手付かず状態なんだろう。
 だが一方で大麻などの違法薬物の使用は大抵の国と地域で禁止されていて、栽培や販売をすれば極刑となり、使用するだけでも重罪になるようだ。
 薬物、ダメ、絶対。

「――ちょっと、ちゃんと聞いてるの? 大体カムイはねぇ、もっと私を頼ってもいいのよ。今日だって、私に泣きついて来るくらいしたら良かったの!」

「そうですねぇ」

 紅さんが酒を飲み始めてから1時間ほど。
 彼女は決して酒が弱いというわけではないんだろうけど、些か進むペースが早すぎた。
 いや、俺も煽ててガンガン飲ませた非はある。
 だが酔っ払うとここまでめんどくさい人だとは思わなかった。

 所謂、絡み酒というやつだ。
 身体を密着させて来ていて左腕に感じる柔らかい感触は非常に役得ではあるんだが、まさか酔っ払いを襲う訳にもいかず精神をガリガリと削られていた。
 もはや精神の修行である。

「……紅さん、そろそろお酒はやめておいた方が良いんじゃないですか?」

「らいじょーぶ!」

 さりげなく酒瓶を遠ざけてみるもその気遣いは無駄だった。
 自分のところへ強引に引き戻し、空になっていたコップに新たに酒を注いでしまう。

 ……はぁ、これは潰れるまで飲ませるしかないのか。
 俺はそんな諦めと共に紅さんを横目でチラリと見た。
 薄っすら赤く染まった頬が彼女の色気を倍増させ、酔っ払っているくせに所作がいちいち色っぽい。
 というかエロい。

「フフフ、カムイ。おねーさんの魅力の虜になっちゃったのかな?」

「ええ、もちろんです。俺はいつでも紅さんに魅了され続けていますよ」

「フフッ、あ、り、が、とっ」

 ちゅっ、と頬に柔らかい感触が伝わってきた。
 …………ちょっと性格変わりすぎじゃない?

 

   

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