大筒木一族の最後の末裔31

 暖かい日差しが照り付ける中、今日も元気にガキンチョ三人組の相手をする俺。
 ただ、何時もと違うのは後ろで座っている紅さんだ。
 彼女は俺と目を合わせては気恥ずかしそうに目を逸らし、また合っては逸らしを繰り返している。
 時折見せる落ち着きのない様子はいつもの紅さんらしくなかった。

 そりゃ、誰が見てもおかしいと思うわな。
 その様子を見た子供たちが心配そうな顔を浮かべるのも無理はない。

「あのさ、あのさ。紅の姉ちゃんってば一体どうしたんだってばよ? さっきから様子が変だし、風邪でも引いちゃったのか?」

 ナルトが真っ先にそう尋ねてきた。
 流石に子供だと何かあったくらいしかわからないだろうが、勘の良い女性とかだと変な邪推をしてくるかもしれないと思う程度にはわかりやすい反応だったからな。
 とはいえ、いくら何でも子供に昨夜の出来事を話すわけにはいかない。
 倫理的にも紅さんの名誉の為にもね。

「あー、昨日ちょっと酒を飲み過ぎたみたいで体調があんまり良くないみたいなんだ。そのうち治るだろうから、今はそっとしておいてあげてくれ」

「そうなのか……。早く良くなるといいな!」

「日向秘伝のお薬をご用意しましょうか?」

「いんや、それは大丈夫だよ。本人も少し時間があれば良くなるって言ってたから。でもその気遣いはありがとな」

 あの刺々しかったネジからそんな優しい言葉が聞けて俺は満足だよ。
 ヒナタも心配そうにしているし、俺としても早く元通りになって欲しいところだけど……あとでちょっと話してみるかな。

 どうやらは紅さんは酒を飲んで酔っ払ってもしっかり記憶があるタイプのようで、俺へのちょっとばかり過激なスキンシップも覚えていた。
 だから今日の朝に顔を合わせてからずっと、紅さんあの調子なんだ。
 見た目からは想像できないほどに初心な人である。
 うん、可愛い。

 ちなみに、昨夜は襲ってやろうかと何度も思った地獄の夜だったが、結局手は出していない。
 彼女の名誉にかけて何もなかったと言い切れる。
 ……まぁ、真実はそういう事になる前に紅さんが完全に酔い潰れてしまったという訳なんだけど。

 今思えば実に惜しい事をしたと思う。
 手を出す時はお互いにしっかりとした意識がある時、なんてそんな小さなことを気にしたばかりに俺は悶々とした時間を過ごす羽目になった。

 精神統一の修行としてはこれ以上なく有意義な時間だったかもしれないが、もう一度やろうとは微塵も思わないな。
 冗談とかではなくこれのお陰で一つの悟りを開けた気がするんだけど、マジでチャクラの巡りが速くなった気がするのは俺の気の所為なのかね?

 確かめる方法があれば確かめたい。
 そして煩悩開花の術としてこの修行法を広めたい。
 マゾを量産してしまう禁術になるかもしれないけど。

「とりあえず、紅さんのことは気にしないで良いぞ。それよりも今日はお前たち三人にひとつ報告があるんだ」

「報告、だってばよ?」

「ああ、そうだ。まどろっこしい前置きは抜きにして話すと、俺は木ノ葉の忍として雇われることになった。今までは日向一族の客人みたいな扱いだったんだけど、昨日正式に火影様からお話を貰ってな。受けることにしたんだ」

 実際はほとんど脅迫に近かったけど、それをこいつらに言う必要はない。

「それは……よかったのですか?」

「よかったに決まってるだろ。なんせ今までの俺は紅さんに養ってもらっていただけだからな。働き口を用意してくれるのなら、俺は喜んで木ノ葉の忍になるさ」

 ネジは俺の心配をしてくれているようだ。
 賢い子だから、何か裏があったのではないかと考えてしまうのだろう。
 だから俺は安心させるように笑ってネジの頭を撫でてやった。

「心配するな。俺にもメリットがあったから受けたんだ。お前が心配するようなことは無いよ」

「そう、ですか」

 一方でナルトは今の説明でもいまいちピンと来ていないらしく、腕を組んで難しい表情を浮かべながら唸っている。

「……つまりどういうことだってばよ?」

「今までは客人みたいな立場だったんだよ。それが正式に木ノ葉の忍として働くことになった。まぁ、この里に骨を埋める覚悟とかは全く無いんだけどな」

「うぅん?」

「カムイさんはこれからも木ノ葉に居てくれるという事だ。ナルトはそれがわかっていれば良いだろう」

「おぉ! それなら簡単だってばよ!」

 ナルトはネジの補足でようやく納得してくれたみたいだ。
 ははは、すっかりナルトの扱いにも慣れちゃってるな。

「カムイさん、ずっと一緒に居てくれるの?」

「そうだなぁ。とりあえずヒナタ達が下忍か中忍になるまでは、何処にも行くつもりはないよ。だから安心してくれ」

「……っ! よかった、です」

 あら可愛い。
 ヒナタの笑顔はマジで天使みたいだな。
 この笑顔のためなら俺はどんな国でも更地にできる気がする。
 いつまでも癒されていたいが、動きたくてうずうずしている二人もいる事なので、準備運動として体術の型をやるように指示した。

「それじゃあ今日も元気に修業を始めるか。まずはいつも通り体術の型をやっててくれ」

『はい!』

 そして三人が体術の型を繰り返しているのを横目に、俺は木陰の下で休んでいる紅さんの元へ移動する。
 早いとこ何時もの紅さんに戻ってほしいからね。

「ど、どうかしたの?」

 途端に挙動不審になる彼女を見て、思わず苦笑が漏れた。

「そろそろ元に戻ってくださいよ。昨日のことなら俺は気にしてませんし、あいつらが心配してるんです。そんな様子だと俺の方まで調子が狂っちゃいそうだ」

「それは、わかってるんだけど……」

 この初心な反応をしてくれる紅さんも可愛くて良いんだけど、そういうのは二人っきりの時にしてほしい。
 と、ここで一つ朗報がある。
 なんとこの世界では一夫多妻というのはそこまでおかしい話じゃないらしく、俺が夢見るハーレムの難易度は想像よりもグッと下がったのだ。

 つまり何が言いたいかというとだね。
 もういっそのこと、俺は紅さんとそういう仲になってしまおうという考えなんだよ。
 木ノ葉の忍になったことだし丁度いい。
 このまま微妙な空気の中生活するっていうのもじれったいしね。

「紅さ――」

「探したぞ、紅!」

 しかし、俺の言葉は聞きなれない男の声で遮られてしまった。

 

   

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