大筒木一族の最後の末裔33

 まさか紅さんがここまで怒っているとは思わなかったのか、アスマはその怒気に怯んで急に大人しくなる。
 顔を真っ赤にして感情を爆発させていた彼は、今度は紅さんの怒りで顔を青くし、ようやく話が出来る状態に戻っていた。

 かく言う俺もちょびっとだけその迫力にビックリ……というかビビっている。
 それくらいの迫力が彼女から発せられていたんだからしょうがない。
 今後も絶対に紅さんだけは怒らせないようにする必要がありそうだと、改めてそう思う。
 まぁ、怒りを向けられているのは俺じゃないから、本気で紅さんのことを怖がっている訳じゃないけどね。

「ぐっ……わかった。もう止めるよ。止めるから、そう怖い顔をするな紅」

「なら、さっさと回れ右して帰んなさい。今のアンタとは話すつもりなんて無いから。ましてや、今の私とあなたは赤の他人。そうでしょ?」

「それはっ……いや、そうだな。本当はその事についてもう一度話し合おうと思って来たんだが、思わず喧嘩腰になってしまった。すまなかったな。この通りだ」

 そして、紅さんに帰れと言われたアスマはたじろぎながらもバツが悪そうに頭を下げた。
 これはこれで別の意味で面倒くさそう。
 いっそ逆上して忍術でも使ってきてくれた方が俺的には楽だったかもしれない。

「謝る相手が違うんじゃない?」

「そうだな。君にも悪いことをした。スマン、少し冷静じゃなかったみたいだ。また改めて謝罪しに来るから、その時は頼む」

「あー、はい。そうしてください。今度はちゃんと話しましょう」

 一度落ち着いてからはさっきまでとは別人みたいな印象になったな。
 こうも人が変わると俺もどうすれば良いのかわからず、頭を下げられても気の抜けたような返事しか返せなかった。
 そうして何だか煮え切らない終わり方をした修羅場(?)は、これで一応の決着となり、スタスタと去っていくアスマの背中が無性に小さく見える。

 結果として何事もなく終わったが、あのまま普通に戦っていればおそらく俺が勝つと思う。
 憑依する以前のカムイを含めて俺は本気の殺し合いをしたことはない。
 だから、もしそういう勝負で勝てるかと言われればわからないが、自力で言えば俺の方が上だろう。
 転生眼という奥の手を使わなくても良い勝負が出来るんじゃないかな。

 もちろん、慢心していれば足元を掬われるのは俺の方になるんだろうけどさ。

「カムイ、なんで反撃しなかったの? やられっぱなしでいるような性格じゃないわよね?」

 アスマの姿が完全に見えなくなると、紅さんがそう言って話しかけてきた。

「だってあの人をボコボコにしたら、紅さんに嫌われちゃうかもしれないじゃないですか。だからどうしようか迷ってたんです。まぁ実際、そろそろ攻撃しないとやられそうだったので助かりましたよ。ありがとうございます、紅さん」

「礼を言うのはこっちの方よ。アスマが私の腕を掴もうとした時、助けてくれたでしょ? ちょっとだけかっこよかったわ」

「ははは、そう言ってもらえると頑張った甲斐がありますね。でも、俺が紅さんを助けるのは当たり前ですから。相手が誰であろうと俺が守ってみせますよ」

「フフッ、それは頼もしい。期待してるわ、カムイ」

 上品に笑う紅さん。
 俺としては結構いいことを言ったつもりだったから、もう少し可愛らしい反応を期待していなかった訳じゃないけど……この表情も綺麗で好きだ。
 これを見れただけでも助けた価値があったよ。

「あ、冗談だと思ってますね。俺は今まで一度も約束を破ったことが無いんです。だから絶対に、紅さんのことも守って見せますよ」

「疑ってなんていないわよ。私、これでもカムイのことは信頼してるもの」

「え?」

 それは、まぁ、急に嬉しいことを言ってくれる。
 予想外の反撃を食らって俺のポーカーフェイスが崩れそうになるをグッとこらえた。
 せっかくなら最後までクールに決めたいじゃん?

「遠くから見てたけど大丈夫だったのかってばよ?」

 すると、騒ぎを聞きつけてきたナルトたちが近づいて来ていた。
 こいつらにも心配をかけてしまっていたか。
 距離的にもそんなに離れていなかったし、そりゃあれだけ大きな声で叫んでいたら気にもなるわな。

「ああ、ちょっと話しただけだ。心配いらないよ。それより、お前らに言っておいた型の稽古は終わったのか?」

「あー、それは……」

「すみません。こちらから怒声が聞こえてきたので、稽古を中断して様子を見に来てしまいました」

 言い淀むナルトの代わりにネジが答えた。

「そうか。騒がしくして悪かったな。こっちは大丈夫だから、お前たちは戻って稽古を続けてきな。あとで俺もすぐに行くから」

「はい、わかりました」

 今の俺はすこぶる機嫌が良い。
 だから今日は、帰りに美味い飯でも奢ってやるかな。

「……むー」

「ん、どうかしたかヒナタ?」

「なんでもない、です」

 ただ、珍しくヒナタがむくれている理由はまったくわからなかった。

 

   

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