大筒木一族の最後の末裔34

 猿飛ヒルゼンに誘われて木ノ葉の忍となった俺だが、今のところ任務を割り振られることもなく平穏に過ごしている。
 死ぬかもしれない任務を割り振られると身構えていたので、少し拍子抜けしたくらいだ。
 まぁ、のんびりできるのは大歓迎だから全然いいんだけどね。

 出来ることなら人殺しなんてしたくないし。
 ただ、そんな甘っちょろい戯言を言っていられるような世界ではないことを俺は十分に理解しているつもりなので、その時が来たら迷わずに手を下す覚悟は出来ている。

 それから一応、木ノ葉の忍の証として額当てを貰った。
 素直に頭に付けようかと思ったんだけど、額当てをずっと付け続けたら将来おでこが広くなりそうな気がして、結局は首元に巻き付けておく事にしたよ。
 着ている着物に括り付けるという案もあったんだけど、今のこのスタイルが俺的に一番気に入っていたりする。

 あと他に変わった事と言えば……。

「今日から私は任務でしばらく留守にする訳だけど……本当に大丈夫よね?」

 紅さんが任務で数日、長ければ数週間居なくなってしまうという事だ。
 俺の監視はもう必要無いからね。
 もっとも、今でも暗部の視線は感じるから完全に信用されている訳じゃないんだろう。
 そんな事よりも今は紅さんの方が大事だ。

「ご安心を。こう見えて俺は簡単な物なら自炊も出来ますし、木ノ葉に来るまではずっと一人で暮らしていたので何も心配いりませんよ。紅さんはお仕事に集中してください」

「あー、そうだったわね。……寂しくなったら日向の屋敷にでも泊めて貰いなさい。あそこなら喜んで迎え入れてくれるでしょうし」

 俺の年齢は大体12、3歳ってところ。
 しかし前世も合わせれば紅さんよりも年上で、しかもおっさんに片足突っ込んでいるような年齢だ。
 一人でお留守番が出来ないなんて恥ずかしくて口が裂けても言えない年齢である。

「留守番が出来ないほど子供じゃないですって。ま、そう思うんなら一日でも早く帰って来てくださいよ」

「なるべく早く帰って来るわ。護衛任務だから変に長引くことも無いでしょうし」

「気を付けてくださいね。この家で待ってますから」

「フフッ、もちろんよ。それじゃあ行ってくるわね」

「はい。行ってらっしゃい、紅さん」

 そうして俺は紅さんを外まで見送り、彼女が見えなくなるまでお別れを惜しんでいた。

 ……あぁ、紅さんと会えないなんて辛すぎるなぁ。
 俺も付いて行けたら良かったんだけど、忍になったばかりの俺は当然下忍スタートで、高難易度の任務には連れて行けないと言われてしまったんだ。

 こればかりは仕方ない。
 別に頑張って中忍や上忍になるつもりもないし、俺は精々周囲の人の顔に泥を塗らない程度に地道にやっていこう。
 俺はそんなことを目指している訳じゃないからね。

「さてと。紅さんも行っちゃったし、俺もそろそろ出掛ける準備をするか」

 紅さんは仕事へ行ったが、俺も今日は色々とやらなくてはいけないことがある。
 それが何かと言うと、俺の実力に懐疑的な人達の前で模擬戦をすることになっているんだ。
 相手が誰かは知らないけど聞いた話では上忍を用意しているらしい。

 その人と戦って俺の実力を認めさせることが結構重要らしくて、不甲斐ない結果を残せば今後の生活で肩身の狭い思いをすることになる。
 昨日、紅さんがそう教えてくれた。
 だから今回は本気でやるつもりなんだけど、全力は出さない……というか出せないから多少の不安が残る。

「ん、もう来たのかな?」

 部屋に戻って身支度をしていると、この部屋にまっすぐ向かってくる人の気配を察知した。
 最近こういう気配を感じ取る力を集中的に鍛えているから、このアパートの住人以外が近付いて来るとすぐにわかるんだ。
 意識していれば眠っている時でもすぐに飛び起きれるから便利の能力である。

「白眼」

 念の為に白眼で壁の向こう側を透視してみると、やっぱり木ノ葉の忍が一人こっちに向かって歩いて来ていた。
 口元を布で覆い、左目を額当てで隠している長身の男。
 顔の大部分を隠している特徴的な姿のこの忍を見間違える筈もない。

「……はたけカカシ」

 原作のみんな大好きカカシ先生であった。
 アニメでは過去編を製作されるほどの人気キャラで、作中での強さも未来では火影になるほどの実力と人望がある人物。

 そんなカカシ先生がどうしてここに……って、もしかして俺が今日戦う相手ってカカシ先生なのか?
 だとすると少し面倒なことになりそうだ。
 確かこの時期のはたけカカシは全盛期の状態で、原作が始まった頃とは比べ物にならないほど強かったと聞いたことがある。
 余裕で完勝、なんてことは難しいだろう。

 アスマの時は何となく勝てそうだったが、彼とカカシ先生では間違いなく後者の方が強い。
 ……こりゃ、思ってた以上に厄介なことになるかもしれないな。

 俺は苦い顔を浮かべながら、心の中でこの場には居ない紅さんに助けを求めたのだった。

 

   

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