大筒木一族の最後の末裔35

「君が大筒木カムイで合っているか?」

 居留守を使う訳にもいかないのでドアを開けると、そこには暗部のお面を付けている木ノ葉の忍がいた。
 この人がカカシ先生だ。
 さっ白眼で透視したから素顔までバッチリ丸裸である。

「ええ、俺がカムイですよ。そう言う貴方は三代目のお使いの人ですよね?」

「ああ。暗部に所属しているので自己紹介はできないが、火影様の命で今日君と戦うことになった者だ。よろしく頼む」

 うわー、やっぱり今日の相手はカカシ先生かよ……。
 こりゃかなり大変だぞ。
 まだ暗部に所属しているってことは、危険な任務とかを率先して受けて、忍として最高の状態に仕上がっていた頃のはず。
 そんじゃそこらの忍とは比較にならないレベルの相手である事は間違いない。

 俺は引きつりそうになる顔を抑えながら笑みを浮かべて対応する。

「貴方が今日の相手なんですね。俺は見ての通り若輩者なので、どうかその際はお手柔らかにお願いします」

「君の事は紅から腕の立つ忍だと聞いている。それと同時に信頼も出来る男だ、ともな。とはいえ、俺は自分の目で見るまでは信じられなくてね。今日の戦いでしっかりと見極めさせてもらうぞ」

「あはは……頑張ります」

 俺のやんわりとした手加減してくれという提案はこうして却下された。

 今日の戦いでは、当然だけど俺にとってのジョーカーである転生眼は使えない。
 大勢が見ている前でこんな強力な物を使えば、そのあまりの強大さに木ノ葉は俺を取り込もうとするんじゃなく、排除して奪おうと考えそうだからな。
 間違っても転生眼だけは使っちゃいけないだろうし、使うくらいなら普通に負けた方がまだマシである。

 はぁ、仕方ない。
 こうなったら俺も腹を括ろう。
 よく考えればはたけカカシを相手に戦えるなんて滅多にない機会でもあるんだ。
 せっかくだから全力で楽しませて貰うとしようじゃないか。

「それじゃあそろそろ行きましょうか。俺の方はもう準備は出来ているので」

「了解した。では今日の会場となる場所に案内しよう。三代目は既にご到着されている筈だ。到着したらすぐに戦闘を始めることになると思うが、大丈夫か?」

「はい。こっちは問題ありません」

 本当は大アリだけどね。
 そんな事を顔には出さず、俺は仮面に連行されるような形で里の中を移動する。
 暗部の人間が白昼堂々と大通りを歩いているのが珍しいのか、道ゆく人から結構な視線を感じるな。

 ま、今の俺はそんな事を気にしている余裕など無く、頭の中で作戦を組み立てている途中だから気にはならないけど。

 実戦経験が浅い俺は基本的に体術か忍術のゴリ押し戦法しか使えないので、経験が豊富な相手や絡め手が得意な相手には弱い。
 というか、対応がイマイチわからないというのが正直なところだ。

 だから相手を俺の土俵に無理矢理立たせてしまえばいいんだが……問題はそう上手くいくかという所である。

 チラッと横目でカカシ先生を盗み見るが、その姿にはどこにも隙らしい隙は見当たらない。
 もし仮にいま俺が殴りかかれば速攻で組み伏せられそうな気がする。
 これでもかなり体術には自信があるんだけど、そんな俺でも奇襲で勝てそうにないって一体どれだけ強いんだよ。

「どうした、緊張しているのか?」

 俺がひとりで頭を抱えていると、なんとカカシ先生の方から話しかけてきた。

「ええ、まぁ。この戦いで不甲斐ない結果を残せば、これまで俺を助けてくれた色んな人に迷惑がかかってしまいますからね。意識せずにはいられませんよ。しかも相手はこんなにも強そうな人ですから」

 別に勝つ必要は無い。
 木ノ葉の上層部だって、まさか俺がはたけカカシに勝てるとは思っていないだろう。

 ただ、あっさり負ければ俺の立場が悪くなるというのも間違いはない。
 だからこそ下手な戦いは出来ないんだ。
 俺の立場が悪くなれば、それだけで紅さんや日向の人たちに迷惑がかかってしまうから。

 そんな様々な思いを込めた俺の言葉に、カカシ先生は何を思ったのか今までよりも少しだけ声のトーンが上がった。

「なるほど。紅が言っていた意味がようやくわかったよ」

 仮面越しだから表情はわからないが、少なくとも今は俺に対してそこまで悪感情は抱いていないような気はする。
 そりゃ素性の怪しい俺に警戒はしているんだろうけど、巧妙にその感情を隠しているのか不快感も全く感じないな。
 今から戦う相手だという事をうっかり忘れてしまいそうになるほど話しやすい。

「紅さんがなんて言ってたのかは知りませんけど、俺なんて別に大したことはないですよ」

「フッ、どうだか。君からはかなりの手練れの臭いがする。それこそ上忍のような気配だ。だがまぁ、今は同じ木ノ葉の忍同士なのだから気楽にやろう。紅の話が一部でも事実なのであれば、何も問題は無いさ。自分の力を木ノ葉の上層部に見せつけてやれば良い」

「自分の力を、ですか。確かにそう考えると少し楽になりますね。最近は紅さんに稽古を付けてもらっていましたから、いくつか実戦で使おうと思っていた技があるんですよ。機会があればお見せします」

「それは楽しみだ。俺も足元を掬われないように全力で相手をしよう」

 うん、仮面越しでも滲み出てくるイケメンオーラ。
 俺も負けじと笑みを浮かべてやるが、既に負けているような気がするのは気のせいだろうか……。

 

   

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