大筒木一族の最後の末裔36

「ここが今日の会場だ」

「ほぇ……ずいぶん立派な建物ですね」

 俺は目の前に現れたデカい建物をその場で見上げた。
 ここは原作で中忍試験の舞台にもなったあの闘技場のような場所で、外観は周りを高い塀で囲われているからか、こうして実際に目にすると刑務所のようにも見えてしまう。
 どうやら俺は今からここでカカシ先生と戦うらしい。

「ここなら周囲に気遣うことなく力を発揮できるだろうという三代目の配慮だ」

「配慮、ですか」

 正直、ここを選んだ理由に何か他の思惑を感じずにはいられなかった。
 例えば、もしも俺がおかしな真似をすればこの四方八方を囲まれた塀の中で封殺する為なんじゃないのか、とか。
 いくら原作キャラとはいえ相手は忍だからな。
 現状では微妙な立ち位置の俺に優しくしてくれるとは思わないほうが良い。
 油断は禁物、その言葉を絶対に胸に刻み込まなければならないだろう。

「安心しろ。今日君をここに連れて来たのは力量を見るためだけだ。少なくとも俺はそう聞いている。だから、恐らくはカムイが心配しているような事は起こらないよ」

「あはは……顔に出てましたか?」

「それはもうはっきりとな。もしも君を殺すつもりなら、ここではなくもっとそれに適した別の場所に案内されていただろう。まぁ、このデカい塀に囲まれた場所に連れて来られたらそう思うのも無理はないか」

 ただ、そんな俺の考えはしっかりとカカシ先生には見抜かれてしまっていた。
 いかんな。
 早いとこ強さ以外の部分も鍛えておかないといずれ痛い目に合う気がする。
 こんなにも簡単に表情に出してしまっているようでは、この物騒な世界を生き抜くのは中々難しいものがあるからな。
 どうやって鍛えれば良いのかは皆目見当が付かないけど。

「さぁ、もう中に入るぞ。三代目たちがお待ちだ」

「あ、はい」

 カカシ先生は俺の前をどんどん進んでいき、心の準備をする時間さえ無くあっという間に闘技場のステージ部分へと到着してしまった。
 そこには原作で見た通りの光景が広がっていて、遮蔽物らしい遮蔽物は殆ど見当たらない。

 そして、上から見下ろすよう形で火影たち数人がこちらをジッと見ているのが確認できる。
 ヒルゼン、ダンゾウ、それから名前は忘れてしまったけど御意見番とか呼ばれていた爺さん婆さん、そして暗部の仮面を付けた者達が数人。

 まったく、俺一人にずいぶんと豪華な面子が揃ったようだ。
 木ノ葉の重鎮が勢揃いって感じじゃないか。
 そんな暇があるならもっと別の仕事しやがれ。

「準備運動でもしたらどうだ? それくらいなら待ってやるが」

 すると、カカシ先生の方からそんな事を言ってきた。

「不要です。忍たるもの常在戦場の心構えが大切ですからね。俺はいつ始めてもらっても構いませんよ」

 しかし、カカシ先生のその優しさは悪いが断らせてもらった。
 どうせならこういう所でもポイントを稼いでおこうという思いもあるし、さっきも言ったが油断してあまり隙を見せたくない。
 警戒し過ぎるくらいがちょうど良いだろう。
 もちろん、今すぐにでも百パーセントの動きができるからこそ言っている。

「フッ、立派な心構えだ。それが口だけではないことを祈っているよ」

 カカシ先生は怒るどころかむしろ面白そうに声の調子が若干上がっているから、まぁそこそこアピールにはなったと思いたい。
 そしてヒルゼン達の所にいた暗部の一人がステージ上に降り立ち、ちょうど俺とカカシ先生の間くらいの位置で止まった。

「私がこの戦いの審判を務める。火影様から相手が死ぬような攻撃はお互いに極力控えよとのご命令だ。よって、危険だとこちらが判断すれば勝負はそこまでとさせてもらう。両者とも、異論はないな?」

 カカシ先生がコクン、と小さく首を振り、俺も問題ありませんと言って了承する。

 でも極力控えろって一体カカシ先生はどのくらいの攻撃で死ぬのだろうか。
 俺の勝手なイメージだけど、腹を貫かれても何だかんだで生きているような気がするんだよな。
 この世界だと手足が吹き飛んでも医療忍術で治せるんだっけ?
 うーん、あまり覚えていないなぁ。

 ま、とにかく今は戦いに集中しないとな。
 転生眼が使えないんだから気合い入れてやらないとマジで死ぬ可能性がある。
 頭の中をカチッと戦闘モードに切り替えると、視界がグッと広がって時間の流れが遅くなったような感覚に入った。
 チャクラが全身に行き渡り、身体がずっと軽くなっていく。

「それでは――始め!」

「ッ!?」

 審判の掛け声が聞こえた瞬間、俺は危険を察知して後ろに大きく後退した。
 俺の本能が咄嗟に反応してくれたのだろう。
 ついさっきまで俺が居た場所には、無数の鋭い棘が地面から飛び出している針山のような状態となっていた。

 

   

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