大筒木一族の最後の末裔37

 間一髪の所で土遁による攻撃を回避したが、カカシ先生は既に次の行動へと移っていた。

「《火遁・豪火球の術》!」

 迫り来る炎。
 一体どうすればそんなに速く印を結べるのかと言いたくなるような速度で手を動かし、再び俺に向けて忍術を発動してきたのだ。

 豪火球の術は口から火を吹く忍術で、俺の身体を一瞬で焼き尽くしてしまいそうな炎の塊が目の前まで来ている。
 このまま何もしなければ俺は数秒後には焼死体となっているだろう。
 土遁の次は火遁だと言わんばかりのこんなバリエーションは全力で遠慮したいところだが、とてもじゃないがカカシ先生は聞いてくれそうにない。

 それなら――。

「《土遁・土流壁》」

 今度は俺が土遁の忍術を発動し、地面から巨大な土の壁を生み出して炎を防御する。
 この忍術は原作でカカシ先生がよく使用していた忍術でもあるが、難易度が高くなく簡単に発動出来るので非常に使い勝手のいい防御系の忍術だ。
 土と炎ではそもそも相性が良いから、豪火球の術くらいの威力であれば問題なく防ぎ切ることが出来る筈。

 そして、俺のターンはこれで終わりではない。
 豪火球の術を防いで安心する暇もなく、俺はカカシ先生が動き出す前にこちらから次の行動に出た。
 出来るだけ早く、尚且つ正確に印を結ぶ。

「《土遁・泥地獄》」

「っ!」

 土の壁越しにカカシ先生が息を呑む音が聞こえて来た気がした。
 俺が発動したこの泥地獄という術は、相手の足下の地面を泥に変化させて身動きを取れなくするというもの。
 効果範囲は込めたチャクラによって変動し、当然多ければ多いほど範囲もそれに連れて広くなっていく。

 ただ、これはあくまでも足止め程度の効果しかないだろう。
 所詮は殺傷力も拘束力もそこまで高くない忍術だし、どうせカカシ先生クラスの忍ならどうにかして抜け出してくるに決まっているのだから。
 だからせめて、一瞬でも気を取られてくれている事を願うよ。

 これから発動する忍術をぶち込む為にも、ね。

「ふぅぅぅ……」

 壁越しにカカシ先生の気配を探知してそこへ意識を集中させる。
 焦るなよ、俺。
 少しでも集中力を乱してしまえば次に出す技は絶対に成功しないし、発動したとしてもまともに当たらない。

 そもそも今の俺では成功する確率は六、七割ほど。
 この技は、そんな賭けみたいな大技なのだ。
 右手に風遁の性質を持ったチャクラをこれでもかというほど纏わせ、それを突き出すと同時に一気に解放するという、体術と忍術を織り交ぜた俺の完全オリジナル忍術。

 苦心しながら編み出した技なだけあって、当たりさえすればいくらカカシ先生であろうとも倒せる自信があった。
 自分の力を証明するにはもってこいの技とも言える。

「――《風遁・烈風獣王掌》!」

 足腰に力を入れながら、壁の向こう側にいるであろうカカシ先生に向けてチャクラを解き放つ。

 その瞬間、凄まじい量の荒ぶるエネルギーが獣の姿を象って生み出された。
 どうやらちゃんと成功してくれたらしい。
 こいつの威力は我ながらとんでもないもので、目の前にあった土壁が一瞬にして塵となり、獣を象ったようなチャクラの塊が未だに泥に足を取られているカカシ先生へと襲い掛かる。

「くっ、一体なんなんだこのチャクラ量は!?」

「……これが今できる俺の最高の技です。ちゃんと味わって下さいね?」

 この技は急激にチャクラを消費するかなり燃費の悪い大技で、少しでも気を抜けばたちまち膨れ上がったこの膨大なチャクラが暴走してこっちにまで被害が及んでしまう。
 なので一瞬たりとも集中を欠くことが出来ず、動き回ったわけでもないのに俺の額には大汗が流れていた。

 そして次の瞬間、鼓膜が破れそうなほどの轟音が会場に響き、それと同時に視界が爆発によって発生した砂煙で覆われてしまう。

 ここで、『やったか!?』なんて言えばまず間違いなくフラグになってしまうので絶対に言わない。
 というか恐らくカカシ先生はまだ倒せていないだろうし、念の為に気配を殺して今のうちに安全な場所へと避難しておくか……っ!

「――《雷切》」

「うお!?」

 突然の反撃。
 急に大量の鳥が鳴いているような甲高い音が聞こえ、咄嗟に身体を倒して回避する。
 倒せていたとは思っていなかったけど、こんなにすぐ攻撃されるのは流石に予想外だ!
 しかも雷切って、カカシ先生の得意技じゃんか!

「やっぱり無事でしたか。とはいえ、無傷であれを回避されるとは思ってもみませんでしたけど」

「……正直驚いている。紅の話を疑っていた訳ではなかったが、まさか君がここまでやるとは考えていなかったよ」

 そう言うカカシ先生は確かに驚いてはいるようだが、全くの無傷である。
 あれだけのチャクラを込めた渾身の一撃を軽々と回避しておいてよく言うよ。

「ははは……そんな様子で言われても嬉しくないですよ」

「そんなことはない。こう見えてかなりギリギリだった。もう少し対応が遅れていたら、今頃俺はやられていた筈だ」

 本当に危なかった、カカシ先生はそう言って再び戦闘の構えを取る。

 あぁ、まだやるのね……。
 俺としてはあんな大技を使った後だからちょっと休ませて欲しいんだけど。

 でもしゃーない。
 そっちがやる気ならそれに応えないとな。
 さぁて、次はどうしようか。
 忍術の打ち合いをしたから、今度は体術で勝負を仕掛けるかな――と、そう思っていた所で審判役の男が再び割って入って来た。

「――そこまでだ。今回は大筒木カムイの力を確かめる為の場。これ以上の戦いは無用である」

 これで終わり。
 少しだけ、その言葉を聞いて残念に思った自分がいることに驚いた。

 

   

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