戦いが終わったということを頭が完全に理解すると、それと同時に疲れがドッと押し寄せてくる。
俺の身体に流れるチャクラはホント馬鹿みたいに多いけど、そんな俺でも一気に多量のチャクラを消費してしまえばかなり疲労が溜まるんだよな。
今回のカカシ先生との戦いで使ったチャクラは全体の二割にも満たないが、その二割というのは普通の忍であれば体内のチャクラが枯渇してしまうくらいの量だ。
それに、今度のことを考えれば色々と気を遣わざるを得ない戦いだったから尚更疲れてしまった。
今すぐにでも寝転がりたいくらいだよ。
「……いい試合だった。また機会があれば是非手合わせしてくれ」
そう言って近付いてくるカカシ先生は、仮面の所為で表情がわからなかったけれど決して機嫌が悪くないように感じられた。
「あ、はい。俺でよかったら喜んで。貴方との戦闘は緊張感があって良い修行になりますからね。こっちからお願いしたいくらいですよ」
もちろん、いざという時に止めてくれる人を側に置いて欲しいが。
最後の雷切なんて反応できたのは奇跡みたいなもの。
その前にこっちも殺しかねない技を使っているからある意味おあいこではあるのだが、先生はいくつもの修羅場をくぐってきた人なので大丈夫だろう。
こんな戦いをやっていればついうっかりで死にかねないし、もっと言えば医療忍術が使える人を待機させてもらいたいくらいだ。
あ、それならいっそ自分で医療忍術を使えるようになるのも悪くないか。
医療忍術の習得難易度は当然高いんだけど、チャクラ操作という点ではそこそこ自信があるから案外俺も覚えれるかもしれない。
「フッ、それは何よりだ。俺はそれなりに使える忍術は多いから、君の修行の助けになれる事もあるだろう」
すると、カカシ先生はそんな優し気な言葉を俺に掛けてくれた。
うーん。
彼にそう言われるのは素直に嬉しいが、幾ら何でもそこまでされるような関係ではない。
殴り合ったら友達、なんて甘い世界ではないのだ。
何か裏が……という勘繰りをしてしまう俺は流石に考え過ぎなのか?
「どうして俺にそこまでしてくれるんですか?」
「そうだな……君は知らないかもしれないが、俺は君に恩があるんだ。とても大きな、ね。だからカムイ、君には出来るだけ協力したいと思っている」
「恩?」
「それについては機会があればいずれ話そう。今は他にやるべき事がある」
そう言ってカカシ先生は審判役の暗部の人に合図を出し、俺との話を打ち切ってしまった。
上手くはぐらかされたな。
ただ、俺にはさっきのカカシ先生が嘘を吐いているようには感じなかった。
本人もいずれ話すと言ってくれているし、今はこれ以上の追求は出来そうにない。
「それでは大筒木カムイ、火影様方がお待ちだ。案内するから付いて来い」
「わかりました。……暗部のお兄さん、また会いましょう」
「ああ。上手くやれよ」
ずっとお兄さんと呼ぶのも面倒だし、次に会う時には名前くらいは教えてほしいものだ。
◆◆◆
「――うむ、想像以上の腕前だな。これなら木ノ葉にとって十分有益な忍となってくれるじゃろうて」
ヒルゼンは満足気な表情を浮かべながらそう言った。
想像以上の腕前とはもちろんカムイの事である。
『忍の神』、『プロフェッサー』と呼ばれている彼の目から見ても、先ほどの戦いは非常に高度なやり取りや忍術が飛び交うレベルの高い戦いだった。
カムイの相手を務めた暗部の男は、上忍の中でも頭一つ抜けた実力を持っている『はたけカカシ』だ。
そんな相手とまともに戦える忍は木ノ葉にもそう多くはない。
だからこそカムイの力はこれ以上ない形で証明されたことになり、これまで部下の口から報告で聞くだけだった彼の本当の実力が今回の手合わせではっきりした。
間違いなく木ノ葉の戦力になると、ヒルゼンはそう確信している。
「ヒルゼンよ。あの男の素性は一切わからぬのだぞ? 木ノ葉の情報網を以ってしても、だ。日向の分家という話もあるが、それにしても信憑性に欠ける。そもそも、いつこちらを裏切るかわからん者を懐に抱えておくリスクを本当に理解しているのか?」
しかし、そんな彼とは対照的に他の三人はどこか納得のいかない表情をしていた。
その三人とはダンゾウ、そして御意見番である『水戸門ホムラ』と『うたたねコハル』の二人である。
「ダンゾウの言う通りだ。あのカムイという少年、まだまだ余力があるように感じた。あの歳であそこまでの技量を身に付けておるなど明らかに異常。きっとまだ何かしら隠している事情があるだろう。放置すれば木ノ葉に害をもたらすやもしれぬ。その前に排除しておくことも考えるべきではないのか?」
「他国からの間者という可能性も十分にある。第三次忍界大戦が集結して早数年、そろそろ他国が手を伸ばして来たとしてもおかしくはない時期だ。いっそ、幻術にでも掛けて本音を聞き出すのも悪くはないと思うが」
どうやらヒルゼン以外はカムイに対して否定的な意見を持っているようだ。
突如として木ノ葉に現れ、その素性も確かではないとなれば里の重鎮たる彼らが警戒するのも無理はない。
ただ、そんなダンゾウ達の意見を聞いてもヒルゼンの考えは全く変わらなかった。
「カムイからは裏の者が放つ特有の気配が感じられん。恐らく、まだ人を殺した事も無いのだろう。彼はただ強いだけの子供じゃ。そんな者が潜入任務? それこそあり得んよ」
「それは……確かに」
ヒルゼンからの指摘にホムラはたじろぐ。
たとえ老いによって一線から退いたとしても、この場にいる彼らは皆、元は一流の忍である。
そんな彼らから見たカムイは確かに戦闘力は間違いなく高いが、忍としての経験は浅い……どころかほとんど無いように見えた。
故にその言葉に思わず納得してしまったのだ。
三代目火影として木ノ葉の里を率いてきた元々の信頼度の高さも相まって、そこまで言うのなら一度様子見をしても良いかもしれないという気持ちが芽生え始めていた。
その様子に大きく頷き、ヒルゼンは笑みを浮かべる。
「話は一旦これまでだな。あとはカムイ本人を交えて話そう。なに、心配はいらんよ。あの少年はお前たちが思っているほど、裏の有る者ではない」
ホッホッホッ、と笑うヒルゼンにダンゾウたち三人は一応の納得を見せたのだった。