大筒木一族の最後の末裔40

「抜け忍の討伐に、中忍試験か……一気にやるべき事が増えたって感じだよなぁ」

 三代目から言われた言葉を思い出して俺はため息を吐いた。

 色々と覚悟を決めたのは良いが、よく考えてみたらヒモ男として最高の日々を手放さなければならないと気付いたんだ。
 数日後には任務で里を出て人殺しをしなくてはいけない……というよりも、正直そちらの方が俺にとって重大事件である。
 それに思い至ってからの気分は決して良くはなく、何度口からため息が溢れたか分からない。

「カムイー、今日はどうしたんだってばよ? 紅の姉ちゃんが居ないから元気がないのか?」

 するとナルトがそう言って近付いて来た。
 当然その後ろにはネジとヒナタも居て、すっかり三人一緒にいる事が当たり前になっているようで嬉しい。

「いや、そういうわけじゃ……ないこともないのか。でも元気がないわけじゃないから心配すんな。それより、今日はネジに組み手で勝つんだろ? 見ててやるから頑張れよ」

「おう!」

「もちろんネジもな。ナルトは技術はともかく根性はあるから、最後まで油断するんじゃないぞ」

「はい!」

 二人とも良い返事だ。
 俺が本格的に任務を始めれば、こうして三人の相手をしてやる時間も中々取れなくなるかもしれない。
 だから今のうちに出来ることはやってやりたいと思う。
 こいつらには未来で激しい戦闘が待っているから、少しでもそれに備えて戦う力を付けさせてやりたい。

「んじゃ、ヒナタはどうする? 一緒に二人の組み手を見ているか、いつもの修行をしたいなら俺がそっちも見てやるけど?」

「カムイさんと一緒に見たいです」

「そっか。じゃあおいで」

「は、はいっ」

 その場に腰を下ろしてヒナタを手招きすると俺の側にちょこんと座った。
 この子の人見知りはまだ完全には治っていないけど、出会った時みたいに人の目を見て喋れないという事はほぼ無くなっている。
 良い傾向だ。
 その調子でどんどん自分に自信を付けていって欲しい。

 と、そんな事を考えている間にもナルトとネジの組み手が始まった。

「てりゃああ!」

「甘い!」

「って、うわああ!?」

 組み手と言ってもかなり一方的な展開が続いていて、ナルトが我武者羅に突っ込んではネジに綺麗に投げ飛ばされている。

「はぁ……はぁ……くそー! 一発も当たらねぇってばよ!」

 息を切らしながら汗を流しているのはナルトだけで、ネジは息切れどころか始めに居た場所から一歩も動いていなかった。
 いくらナルトも体術の修行を始めたと言ってもネジに勝てる見込みはない。
 少なくとも一年やそこらで埋まる差ではないだろう。

「そんな大振りの拳が当たるわけないだろう。もっと足を動かして、細かい動作で相手の動きを読むんだ。自分の攻撃を当てるよりも相手の攻撃を貰わないことを意識しろ」

 俺がアドバイスをするまでもなく、ネジがしっかりとナルトに助言している。
 いくら成長が著しいナルトでも、そう簡単にネジを上回る事は出来そうにはなさそうだ。
 体術でも忍術でも、今のネジは子供とは思えないレベルだからなぁ。
 白眼を使えば下忍くらいなら勝ってしまいそうなくらいだ。

「カムイさん」

 二人を応援しながら見守っていると、隣にいるヒナタから名前を呼ばれた。

「ん、どうした?」

「お膝の上、座ってもいいですか……?」

「膝の上? おう、いいぞ」

 俺がぽんぽんと胡坐をかいていた膝を叩くと、ヒナタは嬉しそうにその場所にちょこんと収まった。

 ナルト達には俺が任務でしばらく里から離れることは既に伝えてある。
 詳しい内容までは流石に言っていないが、それでも日向の兄妹は里外の任務の危険性をある程度は理解しているのだろう。
 だからその不安を紛らわせる為に、ヒナタはこうして珍しく甘えて来たのかもしれない。
 任務に出て、そのまま帰って来ない忍なんて良くある話だから。

「カムイさん。ちゃんと、帰って来てね?」

「もちろん。任務って言っても木ノ葉の忍を同行させて貰えるらしいから、そこまで危険な事にはならないさ。速攻で終わらせてまたすぐにヒナタ達に会いに来る。だから安心して待っててくれよ」

「うん……!」

 ヒナタの小さな手が俺の着物をぎゅっと掴み、少しでも側に居ようとしてくれている。
 俺はそれが無性に嬉しかった。

 

   

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