大筒木一族の最後の末裔43

 任務を開始してから約一ヶ月。
 合計三人の抜け忍やら犯罪者を討伐した俺は、心身共に疲れ果てながらもようやく木ノ葉の里へと帰還した。
 もう本当にヘトヘトである。
 修行でもここまで疲弊したことはないくらいゲッソリしていた。

 そんな状態で里の入り口にある左右にそれぞれ『あ』『ん』と描かれた門の前に到着し、その奥に広がる平穏な街並を視界に収めた。

「……まさか木ノ葉の里に帰って来れたのがこんなにも嬉しく感じるとは思いませんでした」

 ポロリと自分の口から溢れたその言葉。
 里の中は命が容易く散っていく物騒な世界からは隔絶しているかのように平和な場所で、ここに帰って来れた事に安心している自分がいる。

 木ノ葉は今でも嫌いだ。
 里の住民達がナルトに対して向ける視線は過去にどういう事情があれ到底許せるものではないし、俺はきっといつまでもその事実を忘れることは無いだろう。

 だけど、こんな里にも良いところはたくさんあって、決して悪い部分ばかりではないことを知っている。
 そういう人たちの為と考えれば今後の任務だって頑張れると思う。
 ……まぁ、それでも今はまだ命を懸けるとまでは言い切れないけど。

「初めての任務のあとなんて皆そういうものだ。お前はよくやったと思う。この任務は本来ならAランクに分類されるような難しいものだからな。それを無事に成功させたんだから誇っていい」

「そう褒められると嬉しいですね。でも、カカシ先生が居なければ倍くらいの期間がかかっていたかもしれません。もしくは達成できずにのたれ死んでいたかも。だから、今回付き合ってくれて本当に感謝してるんです。ありがとうございました」

 任務の内容なんて思い出すのも億劫なほど過酷だったからなぁ。
 人を殺すのはもちろんだが、任務中は毎日まともに眠ることすら出来なかったし。
 そんな中、途中で何回もカカシ先生からアドバイスを貰っており、一ヶ月で帰って来れたのは間違いなくそのおかげだ。
 もう少し長引いていたら発狂して手当たり次第に転生眼をぶっ放していたかもしれない。

「今後もカムイにはこういった任務が割り振られる事になるだろう。今は戦闘力の高い忍は貴重だからな。おまけにお前は頭の回転も悪くない。無事に中忍試験に合格すれば、いずれは上忍にだってなれる筈だ」

 上忍、か。
 ヒルゼンの爺さんに言われたから俺は数ヶ月後にある中忍試験で結果を残さないといけないんだが、個人的にはそこまで興味は無いというのが本音だ。
 難しい任務とかも面倒だから出来るだけやりたくないしな。
 なんなら一生下忍でも良いとさえ思っている。

「ちなみにですけど、上忍になったら何か良いことでもあるんですか? 正直、俺はこのまま下忍でもあんまり困らないんですよね」

 俺がふとそんなぶっちゃけた質問をすると、カカシ先生は上忍になることのメリットを答えてくれた。

「まず任務で貰える給金が増える。上忍ともなればよほど派手な生活をしなければ金に困ることも無いだろう」

「それは嬉しい」

 確かに自由に使える金が増えるのは嬉しいが、それだけだとまだ足りない。

「それから里に保管されている禁術指定の巻物も閲覧出来るようになるな。中忍でもある程度は見れるんだが、上忍にはほぼ制限無く閲覧が許可されている」

「ふむふむ」

「あとは……一夫多妻の許可が下りるくらいか」

「それについて詳しくお願いします」

「ん? 一夫多妻に興味があるのか?」

 思わず聞き返してしまうと、カカシ先生は興味深そうな目付きで俺を見てきた。
 俺が一夫多妻に食いついたのが意外だったのかも。

「俺、実は一族の復興を目指しているんですよ。親父の遺言で。だから自分でやりたい事が見つかるまで、とりあえずそれを目指してみようかなーと思っているんですよね」

 本当はそんな遺言なんて無いが、俺が憑依する前のカムイにした仕打ちを考えれば言い訳の理由くらいにはしてもいいだろう。

 ……え?
 なんで嘘をつくんだって?
 そんなの恥ずかしいからに決まってんだろ。

 そして、幸いにも俺の話をカカシ先生は信じてくれた。

「それは……何とも果てしない道のりだな。上忍になれば里から正式に多数の妻を迎えられる許可をもらえるぞ。まぁ、実際に重婚をする奴はかなり珍しいが」

 ほぅ、これは驚きの新事実だ。
 ハーレムなんて一体どうやって形成すれば良いのかと日々疑問に思っていたが、上忍にさえなれればその道が勝手に開いてくれるという。
 相手は自分で見つける必要があるとはいえ、里から正式に許可されているとなればグッと難易度が下がるはず。
 そこまで乗り気ではなかった中忍試験もこれなら張り切って参戦できそうだ。

「ま、別にそこまで復興云々にこだわるつもりもありませんけどね。今のところ俺に構ってくれる人なんて紅さんしか居ませんし、紅さんは紅さんであまり俺の事を男として見ていないので」

 紅さんなら酒に酔わせれば向こうから襲ってくる気もするけどね。
 もちろんこれは最悪の手段なので使うつもりは無い。
 ……たぶん。

 そういえば紅さんともかなりの期間会っていない。
 元気にしてたのかな、紅さんは。

 

   

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