大筒木一族の最後の末裔46

 紅さんに見送られた俺は、中忍第一試験の会場に来ていた。
 試験会場には既に結構な数の忍が集まっているようで、木ノ葉の忍だけじゃなく他の里の忍も居て、試験が始まる前からお互いに牽制するような視線を送り合っている。
 皆んなピリピリしていて、今にも戦闘が始まりそうな雰囲気だ。

「──注目!」

 そんな中、下忍にしては纏っている空気が桁違いに鋭い者たちが前方に現れた。
 恐らくあの人たちがこの試験の監督官なのだろう。
 見たところ中忍の中でも中々高いレベルといった感じかな。
 ただ、誰も彼も顔で選ばれているんじゃないかと思ってしまうほどに、現れた彼らは見事に威圧感がある人ばかりだった。

「これより中忍選抜試験、第一の試験を開始する。各自、席に着け!」

 室内によく通るその声に従って、受験者たちは文句も言わず席に座っていく。
 ぼっちの俺は最初から座って待機していたのでそのままである。

「よし、ではまずこの試験についての説明をするぞ。だがお前たちからの質問には一切答えるつもりはないので集中して聞け」

 そう言って試験官の男はチョークを手に取り、黒板に文字を書きながら簡潔に試験の内容を説明していった。

 ……ふむ。
 どうやら俺が知っている試験の内容と差異はほとんど無いらしい。
 第一試験の内容は加点式ではなく減点式の筆記試験……つまり、原作と同じような試験とのことだった。

 簡単にまとめると問題は全部で10問。
 間違った解答をすれば1点減点されて、カンニングを試験官にバレる度に2点も減点される。
 そして自分の持ち点が0になれば失格というものである。
 ちなみに、チームの誰かが失格になれば点数関係無く一緒に失格になるというルールもあるようだが、俺はソロなのでそれは関係ない。

「そして最後に、10問目の問題は試験開始から45分経ってから出題する。試験時間は1時間だ」

 俺の記憶が確かならその10問目の問題は覚悟さえあれば突破出来る簡単な問題の筈だ。
 だから極端な話、10問目が発表されるまでカンニングしなければ合格することは可能なのである。
 実際に原作でナルトはそうやって第一試験を突破したしな。
 もっとも、その場合チームメイトに頑張ってもらう必要があるのだけど。

 原作ではカンニングせず大人しくしているだけでも合格出来たような気はするが、そんな大博打を打てるほどの強メンタルではないので念のためにしっかりと試験勉強はしている。
 通常の勉強方法であれば数ヶ月やそこらで全ての範囲を学習する事なんて絶対に出来ないんだけど、そこは超便利な『影分身の術』でカバーしてね。
 分身に毎日勉強させればあら不思議。
 本体が修行をしている間でも、分身が勉強しただけ知識が増えていくのだ。

 受験生が聞けば卒倒しそうな勉強法である。
 何せ本人は寝てても勉強した事になるんだからな。
 出来れば前世でもこの術が使えていたら……と、思わないでもない。

「それでは──始め!」

 試験官の一声で一斉に問題を解き始める受験者たち。
 ただ、実際にペンが動いている者はかなりの少人数で、ほとんどの受験者は問題を見て固まってしまっている。
 隣の席にいる少年なんてこっちが心配になるくらい顔が真っ青になっていた。
 俺は『影分身の術』によるブーストで知識を詰め込んだから幾分か気持ちの余裕があるけど、そりゃテストで全く分からない問題が出ればそんな顔にもなるよな。

 おっと、俺も他人の心配している場合じゃない。
 周りに遅れないようにそろそろ始めるとするか。
 保険である白眼はまだ使わずに、とりあえずは自分の実力だけで解いてみようと上から順に解答を書き込んでいく。
 ほぼズルのような手段で身に付けた知識のおかげだが、その甲斐あって意外とスラスラと解けた。

 フッ、これも実力の内だよ。
 勝負は始まる前から既に明暗が決まっているのさ。
 そんな事で罪悪感を感じるような繊細な心は、生憎とっくの昔に消え失せているのでなんとも思わない。

「む……」

 そうして5問目までかなりのハイペースで解答していたのだが、そこで手がピタリと止まってしまう。

 ……うーん、どうやらここからは難易度が更に上がるようだ。
 時間をかければギリギリ解けなくもないが、簡単には解けないような問題。
 6問目からはそんな感じの問題がずっと続いている。
 わざわざカンニングして危険を犯そうとは思わないけど、これは確かに焦ってしまいそうになる。

「12番、失格」

「ち、違う! 俺はカンニングなんてやってねぇ!」

「口答えするな! 仲間と一緒にさっさと出て行け!」

 あらら、早速カンニングがバレて失格する奴が出てきたか。
 可哀想に。
 その後も続々と失格者の番号が呼ばれ、仲間と一緒に退出して行く者が後を絶たなかった。
 百人を軽く超えていた受験者が今では六十人ほどにまで減ってしまっている。

 一方で俺は試験官の声と受験者の悲鳴をBGMとして聞き流しながら、順調に9問目までの問題を解き終わっていた。
 残すところあと一つだけ。
 最後の問題が原作と同じならば、何の障害もなく第2試験へと進むことが出来るだろう。

 周りの人間が各々必死で取り組んでいる中、俺は一足先に一息ついていた。
 第一試験は無事に突破できそうだ。
 この調子で次も上手くいけば良いんだがな。

「45分が経過した。それでは10問目の問題を発表する」

 ばっちこい。
 と、心に余裕を持ちつつ試験官の言葉を待つ。

「10問目の問いは──試験終了までの残り15分の間に、自分の答案用紙を我々試験官の誰かに提出することだ」

 …………うん?
 原作と違うくない?

「なお、時間までに提出できなければ試験は失格となる。当然だが、チームの誰か一人でも失格となれば連帯責任で残り二人も失格だ」

「……は?」

 俺を含めた受験者たちが戸惑っている間に、いつのまにか試験官は一人残らず部屋から消えていたのだった。

 

   

スポンサーリンク

タイトルとURLをコピーしました