大筒木一族の最後の末裔47

 筆記試験中に突如として始まった全員強制参加のかくれんぼ。
 ルールは簡単で、どこかに隠れた試験官を見つけて答案を提出すれば良いだけだ。
 ただ、15分という時間制限付きな上に相手は全員が中忍なのでそう簡単に見つけることは出来ないだろう。

 これは俺にとっても完全にイレギュラーなことだった。
 答案用紙を時間内に提出できなければ即失格だなんて、少なくとも俺の知っている原作ではこういう展開ではなかったからな。
 内心では俺も結構驚いている。

「い、急げ! 早く試験官を見つけてこの答案を提出しないと失格になっちまう……!」

「相手は全員現役の中忍なんだぞ!? 俺たち下忍にたった15分で見つけられるのか!?」

 受験者たちは邪魔すれば人でも殺しそうな勢いで、消えた試験官を探しに部屋から飛び出して行ってしまった。
 ここまでの頑張りが全て無に帰すかもしれないのだから必死にもなるか。
 そしてあっという間にこの場に残っているのは俺ひとりとなった。
 ポツンと取り残され、傍から見れば瞬時に判断し行動できないノロマのように映るかもしれない。

 ……あーあ。
 俺が未だにここから動かないのにもちゃんとした理由があるのにな。
 何グループかは気付いても良さそうなものだけど、どうやら他の下忍たちは失格になるという焦りの所為か少しばかり視野が狭まっているみたいだ。
 落ち着いて周りをよく観察すれば違和感を感じてこの部屋に残っていただろうに。

 俺はそんなことを考えながらゆっくりと立ち上がり、持っていた鉛筆をクナイのように真っ直ぐ投擲する。

「よっ、と」

 当たれば死ぬ……とまでは言わないが、人間の身体程度になら簡単に突き刺さるくらいの勢いで投げた。
 手から離れた鉛筆は黒板の方向に向かって飛んでいく。
 すると、黒板の手前辺りで『パキッ!』と鉛筆が音を立てて砕け散り、その残骸が床に転がった。
 そして空間がぐにゃりと歪んだかと思えば、そこから試験を取り仕切っていた強面の男が現れる。

「──その場に残ったのは噂のガキ一人、か。この程度の隠形を見破れないなんざ、どうやら今回は不作だったらしいな」

 そんな事を呟きながらこちらを観察するような鋭い視線を向ける試験官。
 やはりあそこ隠れていたか。
 修行によって人の気配を敏感に察知できるようになっていたから、わざわざ白眼を使うまでもなく誰かが隠れているとすぐに分かった。
 ……一瞬だけ気配を見失ってしまったのは不覚だったけどね。

「貴方も試験官の一人という認識で良いんですよね?」

「もちろんだ」

「では、まずはこれを提出しておきます。ご確認を」

 俺は試験官のところまで近付いていき、自分の答案を彼へと手渡した。

「うむ、確かに受け取った。……そこそこ難易度の高い問題を用意したつもりだったんだが、お前はこれを自力で解いたのか?」

「さぁ、どうですかね。それにこの試験は自力で解いたかどうかはあまり関係ないでしょう?」

「……まぁいい。確かに結果が全てだ。お前がどういう手段で乗り切ったのかは然程重要では無い。そしてこの時点で、お前は第一試験を無事に突破したことになる。おめでとう、大筒木カムイ」

「これはご丁寧にどうも」

 何問か自信の無い問題もあったが、試験官からのお墨付きがあるのなら安心だな。
 この調子で第二試験も突破出来れば良いんだが。
 まぁ、あれくらいの隠形を見抜けない忍たちが相手なら、俺が油断しない限り負ける事はないと思うけど。

「あ、そういえばこの場に居ない他の人たちは全員不合格になるんですか? 俺としてはライバルが減ってくれるのは大歓迎ですけど、競い合う相手が居ないと中忍試験自体が成り立たないんじゃ……」

 と、俺はふと気付いたことを口にした。

「いや、運の良い連中が他の試験官を発見して合格するだろう。他は皆、下忍でも簡単に見つけられるような場所に隠れているからな。あとは時間内に辿りつけるかどうかだ。中忍試験の進行には全く問題は無い」

「なるほど。突破できるかは運次第ってことですか。中忍試験と言う割にそこは運なんですね」

「俺の隠形に気付けなかった時点で、この試験に合格出来るかどうかは運に委ねられたようなものだ。それは仕方ないな。それに、実戦では運の良い奴が生き残るなんて珍しい事でもない」

 ふむ、確かに。
 原作のキャラがそんな風に死ぬなんて事は無かったが、それはあくまでも創作の物語だったからだ。
 いくら強くても流れ弾に当たってひょっこり命を落とすなんて現実には普通にありそう。
 だから運が実戦でも重要という彼の言い分にも納得は出来る。

 もっとも、それを他の受験者たちも納得出来るかどうかは知らないけど。

「チッ、どこに行きやがったんだ。こうなったら手分けして探すしかない。お前ら、死ぬ気で探せ!」

 ドタバタと慌ただしい音と声が廊下から聞こえてくる。
 というかあと数分しか無いってのに、今から分散したら試験官を見つけても全員が答案を提出する事は出来ないんじゃないのか? 
 何か連絡手段があるなら別だけど……って、他人の心配なんていらないか。
 次の試験に進んで来るならライバルって事になるんだし。

「試験終了と共にアナウンスが流れる手はずとなっている。残り数分、このまま待機しているがいい。合格者が集まり次第、担当試験官が次の試験の説明を始めるぞ」

「あ、はい。それじゃあ俺はここで待ってますね」

 こうして無事に第一試験を乗り切った俺は、次の試験に備えてその場で待機する事になった。
 さぁて、第二試験は一体どういう内容なのかね。
 原作では死の森での演習だったけど、はたしてそれと同じものになるのかどうか。
 ひとつだけ確かなのは、俺が思っていたよりも下忍のレベルはそう高くないということだ。

 

   

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