大筒木一族の最後の末裔48

 先程、試験終了の合図が出されると合格した下忍たちが続々と戻ってきた。
 第一試験を突破できたのは俺を含めて全部で9組、25名だ。
 そのうち木ノ葉の忍が約半数を占めており、他は砂隠れが2組、そして草隠れと音隠れがそれぞれ1組
 ずつ残っている。

 さらにここでようやく俺が一人でいる参加している事に気が付いたのか、さっきから揃いも揃ってこっちを盗み見てきている状態で、居心地が悪い事この上ない。

「なぁ、アンタ」

 すると、木ノ葉の額当てをした少年が俺に話し掛けてきた。
 その後ろにはもう二人、彼のチームメイトと思われる者たち待機しており、こっちを警戒するような体勢で様子を伺っている。

「試験には味方がスリーマンセルが原則だった筈だが、どうしてアンタだけソロでの参加している? ソロで参加するなんて聞いた事も無いんだが」

 その質問は恐らく、この場に残っている全ての忍たちが多かれ少なかれ抱いている疑問だろう。
 自分たちがチームで試験に挑んでいるのに一人だけソロで参加しているんだからな。
 そもそも中忍試験というのはスリーマンセルで受けるのが原則のようだし、こうして俺がこの場にいる事自体、普通ではない。
 逆の立場なら俺だって問い詰めたくなる筈だ。

 尤も、だからと言ってこちらの事情をペラペラと話す訳にはいかないんだな、これが。

「俺がどうして一人で参加しているのか、だったな。だが、それはわざわざ言う必要があるのか?」

「……は?」

「一つだけ言えるのは、火影様には許可を得ているからルール的には問題はないということだ。現に試験官たちも何も言って来ない。試験の内容もチームに関すること以外は君らと同じ条件でそこまで不公平って訳でもないから、それで納得してくれ」

 こっちの事情をペラペラと話す訳にいかないんだ。
 どこまで話して良いか分からない以上、反感を買ってでもはぐらかしておくのが正解だと思った。
 悪く思わないでくれよ? 
 文句があればヒルゼンやダンゾウへどうぞ。

「……そうか。いや、少し気になっただけだ。気にしないでくれ。お互い、木ノ葉の忍として頑張ろう」

 そう言って下忍の少年は仲間たちの所へ大人しく戻っていった。

 あれ? 
 思いの外すんなり引いていったな。
 てっきり不正をしたとかって騒がれるんだと身構えていたんだが、少し拍子抜けである。
 単純に疑問に思っただけだったのか、それとも何か狙いがあったのかは分からないが、どちらにせよ注目を集めてしまったのは間違いない。
 まぁ、どうせ最終的には目立ってしまうのだから関係ないと言えば関係ないんだけど。

 周囲から向けられる視線を気にしないように徹していると、数分も経たない内に次の試験についての説明が始まったのだった。

 

 ◆◆◆

 

 目の前に広がるのは深く薄暗い森。

「……不気味だな」

 雰囲気的にシシガミ様でもいそうな森だ。
 ビルよりも高い木がここから見える。
 それなりに都会っ子だった身としては、こういう大自然を前にするとちょっとだけワクワクしてしまうな。
 しかも天然のサファリパークと人工のアトラクション付き。
 退屈だけはしなさそうだ。

「第二試験の会場は此処、死の森だ。演習だからって油断してるとあっという間に命を落とすぞ。森の中に猛獣やら毒虫が住み着いていて、さらに対人用の罠もかなり仕掛けてある。各自、警戒は怠るなよ」

 そこで彼はニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべ、俺たちを一瞥する。

「だが敵はそれだけじゃない。精々、気を付けることだ」

 軽い調子でそう言い放ったこの試験官は、第一試験の試験官とはまた別の忍だ。
 彼らとは打って変わって見た目はそこまで忍っぽくはないが、ちゃんとよく観察すれば動作に全く隙がないと気付く。

 この第二試験、大まかな流れは原作と一緒らしい。
 ただ違うのは巻物を集める必要は無く、森の中心にある建物に到着すれば合格となるようだ。
 その点だけは楽で良い。
 しかし、当然の如く危険度は変わらないほどに高かった。

「この試験、本当に他のチームを妨害してもよろしいのですか? 例えば──他のチームの人間を殺害する、とか」

 ゴクリ、と。
 誰かが息を呑む音が聞こえてきた。

「ああ、構わないぞ。この試験は文字通りなんでも有りだ。他のチームを闇討ちしようが、協力して乗り切ろうが、森の中心にある建物の中に入れば良い。時間内にチーム全員が入れば次の最終試験に進むことが出来る、それが全てだ」

 そう、受験者同士が敵である事は同じなのだ。
 信じられるのはチームメンバーのみ。
 もしも同じ里で親交があるのならば協力し合えるかもしれないが、いざという時に見捨てられないとは限らない。
 だからこそ合否を共にする仲間の存在が非常に大きくなるというわけである。

 ……集中攻撃されない事を祈ろう。
 割とマジで。

「もしもルールを聞いて怖気づいた奴がいるのなら、悪いことは言わないから棄権した方が良い。この森の中はお前たちが思っているよりも遥かに危険な場所だからな。後悔してからでは遅いぞ」

 それを聞いて受験者の中にも数名、動揺を隠せていない者もいたが、誰も棄権を申し出ることはなかった。
 下忍といえども彼らも忍という事らしい。
 その覚悟は立派だ。
 無論、戦闘になれば容赦するつもりは無いが。

「あぁ、それともう一つ。さっきも言ったが森の中には猛獣や毒虫が棲息しているんだが、特に──蜘蛛には気を付けろ。見かけたらすぐに逃げる事をお勧めする」

「……蜘蛛?」

 タランチュラみたいな虫でも居るのか? 
 でもわざわざ気を付けろと言ってくるくらいだから、もっと危険な蜘蛛が居るんだろうな……。
 そんなヤバイ奴とは出くわさないように立ち回る必要がありそうだ。

 

   

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