森の中に一番乗りした俺だったが、早速仕掛けられていた罠が発動し、四方から苦無や手裏剣の雨が降ってくる。
「うぉっと、あっぶねー。これじゃあ一瞬も気が抜けないな」
空中で身を捩らせながら回避したが、今のは少しヒヤッとした。
当然だけど人とは違って罠には気配が無いから事前に察知することは難しい。
オマケに罠の隠し方もかなり巧妙で、何処から何が飛んで来るのかも分からずに、どうしても後手に回ってしまっている。
ただ、どうやらあいつらもしっかりと罠に引っかかっているらしく、後ろから悲鳴と同時に派手な爆発音が聞こえて来た。
大方、起爆札でも爆発させたのだろう。
まったく運の悪い奴らだ。
その間にも俺は走り続け、後ろにいる連中との距離をぐんぐん離していく。
勿論そこら中に散りばめられた罠が襲い掛かって来るが、その度に回避したり打ち落としたりして切り抜けた。
多少のリスクを取ってでも速さを優先した為、後続の連中とかなり距離を離すことに成功した。
そしてその時点で足を止め、近くにあった背の高い木に登って一息入れる。
「ふぅ、罠に気を配りながら移動するってのも結構疲れるんだな。体力よりも先に集中力の方が怪しくなりそうだ」
速く移動するだけならここまで疲れはしない。
だが、至る所に仕掛けられた罠を警戒しながら飛ばしていたから、普通に身体を動かしているよりもずっと疲労が溜まっている気がする。
もっとも、その罠のお陰で後ろの奴らとこんなにも早く距離を離せたんだけど。
「──白眼!」
そして、ずっと休んでいる訳にもいかないので凡そ一分ほどで休憩を切り上げ、森全体の状況を確認する為に白眼を発動させた。
余談だが、俺の白眼は発動しても眼球が多少光るだけなので、もし発動しているのを見られてもこれが白眼だとは誰にもわからない。
「ほうほう、目的地の建物っていうのはあれだな。そんでもって試験官が言っていた蜘蛛ってのは……うわぁ、あれかよ気持ち悪りぃ。しかも三匹もいるし」
白眼で森を見通してみると中心部に建物を発見した。
しかし、その建物を囲むように蜘蛛3匹がそれぞれ巣を成して行く手を阻んでいる。
あれが試験官が言っていた蜘蛛なのだろう。
巨大な身体を持ち、それよりも更に大きな巣で自分のテリトリーを作っている。
あそこは余程の運か感知能力が無い限り通り抜けるのは難しそうだ。
迂闊に近付けば蜘蛛共に見つかり、奴らが圧倒的に有利なフィールドの中で戦わなければならない状況になってしまう。
「……厄介だな、あれ。火遁で一気に焼き払っても良いけど、そうしたら間違いなく大火事になるだろうし」
張り巡らされている巣を焼き払えば戦いやすくはなるだろうが、もしも森に火が回れば自分まで巻き込まれかねない。
それに、そんな迂闊な真似をすれば試験がどうなるかもわからなくなってしまう。
やはり余計な戦闘は避け、蜘蛛とは極力遭遇しないように進むのが一番良さそうかな。
そして、他の受験者たちはと言うと──。
「あらら、早くも潰し合ってるのか。罠に引っ掛かって負傷している奴や、森の中で迷っている奴らもいるみたいだ」
手を組むと相談していた連中は速攻で裏切って戦っているし、早くも殺伐とした空気になっている。
見た感じ負傷者も少なくないな。
まだ脱落したチームは居ないようだが、この分だと放っておいても半分くらいは勝手に消えていきそうだ。
下手にちょっかいは出さずに俺はさっさとゴールを目指そう。
「……いや、待てよ?」
俺は立ち上がりかけた腰をもう一度下に下ろした。
いま急いであそこに向かっても、運が悪ければ蜘蛛の怪物に気付かれて戦闘になる恐れがある。
それなら誰かが戦っている間に通り抜ければ良いんじゃないか? と、悪魔みたいな考えを思い付いてしまったのだ。
要は他の誰かを囮にして、俺は安全に目的地まで移動しようという訳だ。
「我ながら卑怯で性格の悪い作戦だな。実に素晴らしい」
開始直後に危険を犯してまで突出したのだから、ここからは安全第一で動くとしよう。
蜘蛛と戦って勝てる確証も無いことだしね。
囮になった連中がもしも木ノ葉の忍なら、その時は多少手を貸しても良いかな。
特に、俺への手出しを仲間に禁止していたあの男がいるチームになら喜んで手を貸そう。
「よっこらせ。そんじゃあしばらくは休憩だな」
ちょくちょく白眼で下の様子を伺いながら、俺は高みの見物といこう。
ここから皆んなの応援をしているよ。
誰かが来て蜘蛛と戦ってくれないと、俺が安全に通り抜けられないからね。