大筒木一族の最後の末裔54

 カムイがまだ第二試験の真っ最中だった頃、紅はナルトのアパートを訪れていた。
 これから行われる中忍試験の最終試験であるトーナメントを観戦しに行こうと思い、カムイがよく面倒を見ているナルト達を誘いに来たのだ。
 年季の入ったアパートの階段を登り、部屋のチャイムを鳴らす。
 すると、少し間があってから眠たそうな声で『……はーい』という声が聞こえて来た。

「……紅の姉ちゃん?」

 ドアから出てきたのは未だにパジャマ姿のナルト。
 もう太陽が昇ってからかなりの時間が経っているというのに、その格好と眠そうな顔を見ればたった今起きたと推測するのは難しくない。

「これからカムイの応援に行くけど、ナルトも来る?」

「もちろん行くってばよ!」

「なら早く準備しなさい。こんな時間までパジャマだなんて、ちゃんと生活リズムを整えないといつまで経っても大きくは──」

「い、急いで準備してくるってばよ!」

 お説教が始まりそうな気配を感じ取ったナルトは慌てて部屋に引っ込み、着ていたパジャマを着替え始めた。
 その際、チラッと部屋の中にゴミが溜まっているのが見え、近いうちにまた掃除に来る必要がありそうだと紅はため息をこぼす。
 そのままドアの前で待機していると、1分も経たずに外出用の服に着替え終わったナルトが出てきた。
 若干息を切らしているので余程急いできたらしい。

「あら、早かったわね」

「はぁはぁ……遅れたら、置いていかれると思って……」

 そんなナルトに紅は苦笑する。

「馬鹿ね。一緒に行こうって私から誘いに来たんだから、置いていくわけないでしょうに」

「……へへ、そっか」

 その言葉が嬉しかったのか、ナルトは照れを誤魔化すように鼻を擦った。
 ナルトはいつも元気を有り余らせているような子供だが、ちょっとした優しさにさえ顔をにへらと緩ませてしまう純真なところがある。
 これでも最近は慣れてきた方なのだが、未だに不意打ちには弱いらしい。

「あのさ、あのさ! 今頃カムイってば、どこまで勝ち進んでるのかな?」

 頬に若干の赤みを残したままそう聞いてくる。

「どうかしら。時間的には第二試験はもう始まっている頃だけど、あのカムイのことだから既に突破を決めていても全然おかしくないわね」

「だよな! カムイならブッチぎりで優勝間違いなしだってばよ!」

 カムイの事となると目をキラキラと輝かせるのは相変わらずだった。
 どうやらこの子にとって彼は憧れの存在となっているようで、負けるかもしれないだなんて少しも疑っている様子はない。
 もし仮に今回の中忍試験でカムイが誰かに負けるような事があれば、一番傷付くのは恐らくナルトだろう。
 それほどカムイによく懐いていた。

 ちなみに、当の本人は試験中にもかかわらず木の上でヨダレを垂らしながら眠っているのだが、きっとこれは知らない方が幸せである。

「それじゃあ次はネジとヒナタね。カムイの応援に行くなら、あの二人も誘ってあげないといけないだろうし」

 ナルトだけ誘ってあの兄妹を置いていけば後から必ず文句を言われる。
 歳の割に大人びているネジからは嫌味な悪態を吐かれ、ヒナタから無言の涙目で見つめられる事になるだろう。
 特に後者はキツい。
 あの純粋そのものな瞳で悲しい目をされると非常に居た堪れない気持ちになるので、誘わないというのはあり得なかった。

「あら? あそこにいるのってネジ達じゃないかしら?」

「ホントだ。おーい、ネジ! ヒナタ!」

 噂をすれば影。
 紅とナルトが日向一族の屋敷へと向かう途中、偶然にもネジとヒナタが出歩いているのが見えた。
 兄妹は日向一族の特徴である白眼を有している女性と一緒だ。
 ここまで来て行き違いにならなくて良かったと思い、早足で近付いていく。

「紅さんとナルト? こんな所で会うなんて奇遇ですね。どうかされましたか?」

「ちょうど今からアンタ達を誘いに行く途中だったのよ。どう? これから一緒にカムイの応援に行かないかしら?」

「いきます……!」

 そう答えたのはネジ……ではなくヒナタだった。
 急に声を出したことで全員の視線が彼女に集中し、本人も大声を出してしまった事に顔を赤くして使用人の女性の後ろに隠れてしまう。
 そんなヒナタに微笑みながら使用人の女性が口を開く。

「では私はこれで。紅様、お二人をよろしくお願いします」

「はい、わかりました。中忍試験が終わり次第、この二人はしっかりと屋敷まで送り届けますのでご安心ください」

 紅のことは随分と信用しているらしく、日向一族の女性はすんなりネジとヒナタを引き渡してくれた。
 これも日頃からカムイと一緒に兄妹の面倒を見ているおかげだろう。

「二人も合流したし、早く行くってばよ!」

「おいナルト、あまり騒ぐんじゃないぞ。中忍試験には俺たち以外にも里の者たちが大勢いるんだからな」

「うぐっ……わ、分かってるってばよ」

 早速、はしゃぎまくるナルトにネジが釘を刺した。
 紅にしてもナルトの手綱を握ってくれるネジが居てくれると非常に助かる。
 いつもはカムイが傍にいるので自分は遠くから眺めているだけで良かったのだが、こうしてみると普段のカムイが如何に上手く立ち回っているかが分かるというものだ。

「あ、多少なら別に良いわよ。ちょっとしたコネで個室が取れたから、ナルトが多少騒いでも周りの迷惑にはならないわ。でも、道中は大人しくしてるのよ?」

「やったぁー! さっすが紅の姉ちゃんだってばよ! これで思いっきりカムイの応援が出来るな!」

 紅は事前に個室で観戦する為の手配を頼んでいた。
 ナルトは未だに九尾の化け狐と忌み嫌われており、里の人間にとってもナルト本人にとっても、多くの人目につく場所へ行くのはあまり良い選択ではない。
 故に観に行くのであれば個室を取っといた方が良いと予め用意しておいたのだ。
 本来はそう簡単に取れるものでもないのだが、そこはヒルゼンに事情を話して特別に手配してもらったというわけである。

「うん。カムイさんの応援、がんばる……!」

「あの人の実力ならば試験なんて軽く突破するだろうがな」

 子供達も喜んでいるようで何よりだった。
 これでもしもカムイが負けたり、その前の試験で落選していようものなら控えめに言って最悪である。
 小さな応援団からの大きな期待を背負っているカムイ。
 紅も口には出さないが、カムイの中忍試験合格を疑ってはいなかった。

 

   

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