最終試験に残ったのは俺を含めて4組だけだった。
コテツ達が到着してからもう一組がゴールし、そこでタイムアップを迎えたのだ。
これが例年と比べて多いのか少ないのかはわからないが、どちらにせよ俺がやるべき事は変わらない。
他里の忍に対して俺という存在をしっかりと刻み付けてやるつもりだ。
それで中忍に昇格すればヒルゼンからの任務も達成出来る。
「はえー、客席がほとんど埋まってやがる。里の連中って案外暇なのか?」
「暇なわけあるか。里の人間にとってこの中忍試験は数少ない娯楽だから、これくらいは当然なのさ」
俺の口から思わず溢れた本音にコテツはそう答えた。
前の方の客席には人がびっしり入っているし、後ろには立ち見している人もちらほら見受けられる。
この中忍試験の人気が伺えるな。
ま、普段は見られない光景が見られるんだからこのくらいは普通なのかもしれない。
(お、あそこにいるのナルト達じゃねぇか。紅さんが連れてきてくれたみたいだな)
偶然、客席の中に見知った顔を見つけた。
流石に周囲の喧騒が大き過ぎて何を言っているのかは分からないけど、きっと俺を応援してくれているのだろう。
あれだけ必死に応援されちゃ負けられない。
「元から負けるつもりなんて無かったけど、もっと負けられなくなったって感じかな。ホント、気合いが入り過ぎて困る」
不思議なもんだ。
紅さんやナルト達とは出会ってからまだそれほど経っていないのに、もうかなりの期間を一緒に過ごしたような気がする。
今日の試験が終わったらあいつらと飯でも行こうかな。
もちろん、俺の中忍昇格祝いとして。
「あ? ……まぁいい。まさか初戦からカムイと当たるとは思わなかったが、お互い全力を尽くそう。そうすれば負けた方も中忍になれるかもしれないし」
初戦の相手はまさかのコテツ。
友人になったばかりなのでやり難くはあるが、だからと言って手を抜くつもりは毛頭ない。
「おう。こっちは遠慮なくやらせてもらうから、コテツも俺を殺す気でやってくれ」
「……やっぱちょっとだけ手加減とか──」
「しない」
当然だろ?
いくら仲良くなったとはいえ、それとこれとは話が別だ。
それにこの最終試験にまで残っていれば、たとえ一回戦で負けようとも昇格できる可能性は残されている。
中忍としての実力さえ示せばそれで合格なのだ。
反対に優勝しようと適性が無いと判断されれば落とされるという事なのだが、これに関してはほぼ心配しなくても大丈夫らしい。
よほど変なヘマをしなければ優勝者は昇格できる。
「それでは両者、準備はいいか?」
おっと、もう始まるのか。
審判役の忍に急かされたので慌てて配置につく。
「こっちは大丈夫ですよ」
「同じく」
俺とコテツの準備が整ったのを確認し、審判が開始の合図を下す。
「それではこれより第一試合、大筒木カムイ 対 はがねコテツを始める。……始め!」
◆◆◆
「ほぉ、やっぱり術の発動が速いな。危うく食らうとこだった」
「余裕で回避したくせに、嫌味にしか聞こえねーぞ!」
ありゃ、結構本心だったんだけどな。
どうやらコテツは忍術を駆使しつつ相手を翻弄する戦い方をするようだ。
さっきから絶え間なくクナイや術を繰り出してきていて、こちらから攻めることを許さない立ち回りをしている。
恐らくあの大蜘蛛を仕留めた術を警戒しているのだろうが、これがまた中々隙が無くて厄介だった。
しかし、隙が無いならこっちが作ればいい。
「──《土遁・泥地獄》」
「チッ、地面が……!」
泥地獄は相手の足元を泥に変え、更にそのまま固めてしまうことで動きを封じる術だ。
一度足がはまってしまえば簡単には抜け出せない。
この術自体に攻撃力や殺傷力は無いが、相手の動きを一時的にでも封じることが可能なので、組み合わせ次第では非常に凶悪な術へと変貌する。
……死ぬなよ、コテツ。
俺はそう思いながらも非情に次の術を発動させた。
「《火遁・火龍炎弾》」
コテツが泥にはまっている間に印を結ぶ。
そして、大量のチャクラを消費しながら灼熱の業火を吐き出した。
この術は俺が扱える中では最高クラスの威力を持った火遁だ。
龍の如く相手に襲い掛かる炎の化身。
実戦では抜け忍を討伐する時に一度だけ使用したが、その相手を死体が残らないくらいの威力で焼き尽くしてしまったほど。
並みの下忍など一溜まりもないだろう。
「──あっぶねぇ……!」
しかし、コテツは何とか回避してくれたようだ。
多少服が焼け焦げているので軽度の火傷は負っているかもしれないが、この程度であれば十分凌いだと言ってもいい。
本当によく躱してくれたよ。
俺だって友人を殺したくはないしな。
さっきの攻撃は、コテツの忍としての実力を信頼した結果だと思ってほしい。
「今のは分身か?」
「ああ、そうだよクソったれ! もう少し遅けりゃ丸焦げなるとこだったぞ!?」
「お前なら生き残れるって信じてたんだよ。でもどうする、まだやるか?」
「一発ぶん殴るまで終われねぇ!」
その意気や良し。
殴られてやるつもりは無いが、気のすむまで相手をしてやろう。
半殺しくらいなら全く問題はあるまい。