俺は医務室まで足を運んでいた。
と言っても、別に俺が怪我をしている訳ではない。
「おーい、生きてるか?」
力尽きて倒れているコテツの頬をペシペシと叩き、意識が戻っているかどうかの確認をする。
俺との試合が終わってからかれこれ一時間くらいは経っているのだが、身体に負ったダメージが大きかったのか一向に目を覚ます気配はない。
医療忍者の人が言うには命に問題はなく、そのうち目を覚ますだろうとのことだったが、まるで死んだように眠る姿を見て少し不安になってくる。
チャクラの流れには問題無さそうだけど……本当に大丈夫なんだよな?
若干強めにビンタしてみる。
「ぅ、ん……」
すると、俺の献身が通じたようでコテツの身体が僅かに動く。
そして重い瞼がゆっくりと持ち上がった。
「お、コテツ。俺のことが分かるか?」
「……あ、テメェ! さっきはよくもやりやがったな!」
そう言ってコテツはいきなり殴り掛かってくる。
ついさっきまで全く起きる気配は無かったのに、目を覚ましたと同時に襲い掛かってくるとは俺も驚いた。
寝起きでこれだけ動けるのなら心配はいらないだろう。
このまま死んでしまうんじゃないかと少し不安だったので目を覚ましてくれて一安心だった。
ここまでやった張本人が何を言っているのかと思うかもしれないが、これまでガチの実戦は中忍クラス以上としかやった事ないからどこまでやってもいいか分からなかったんだ。
だからコテツには少しだけ悪いと思っている。
結局、一発も殴らせてはやらなかったけどな。
「あはは、飛び起きれるくらい元気なら心配なさそうだな。さっきから中々起きないから、もしも死んじゃったらどうしようって割とマジで思い始めてたんだよ。いやー、よかったよかった」
「いやよくねーよ!? 少しもよくねーからな!?」
「むしろ試合前より元気になってんじゃん」
「身体中死ぬほど痛ぇわ!」
コテツの性格は思っていたよりも実はずっと愉快な男だったらしく、自分の身体の状態を思い出すまで拳が止まらなかった。
今は俺がベットの上に運んでやり、そこで蹲って痛みに耐えている。
怒ったり泣いたり忙しい奴だ。
「……俺はどのくらい気を失ってたんだ?」
「大体一時間くらいってとこかな。トーナメントも残すところ後1試合だけになって、今はちょうど休憩時間だ」
「そんなに気を失ってたのか……それで、お前は当然勝ち残っているんだろうな? 俺をここまでボコボコにしておいて、負けましたとは言わせないぞ?」
「勿論、ちゃんと勝ってるよ」
俺はコテツを倒した後も順調に勝ち上がっており、相手を戦闘不能に追いやりながら自身の力を他里の忍達に見せつけている。
初戦の俺とコテツの試合はかなり派手で見応えのある試合だったと思うが、それ以降はあまり注目されるような戦いは起こらなかった。
コテツ並みにボコボコにした奴もいないし。
ただ、あれに関しては俺も好きでやった訳じゃなく、コテツが何度も起き上がってくるから仕方なく攻撃を加えていたんだ。
現にその後の試合ではある程度実力を見せると相手の方から降参してきてくれるからな。
「まぁとにかく、ちゃんと生きているようで安心したよ。この試験に参加した忍の中ではコテツが一番強かった。だから、まだ中忍に昇格するチャンスは残っていると思うぞ」
「そりゃどうも。ま、負けた以上は変に期待はしないでおくさ。駄目ならまた受ければ良いだけだしな」
コテツはそう言って不敵な笑みを浮かべた。
こんなにボロボロなのにもう次の試験に気が向いているのか。
俺とは違ってコテツは主人公タイプらしい。
この不屈とも言える意思は鍛錬ではどうしても身に付かない元来の性格によるものなので、このまま努力を怠らなければ今よりもずっと強くなるだろう。
「決勝戦でお前さんの相手をする可哀想な相手は誰なんだ?」
「雨隠れの忍だよ。ほら、第二試験で俺よりも早くゴールしたチームがあっただろ。そこのリーダーが決勝で戦う相手だ」
これまで奴らの試合を見たんだが、イマイチどういう能力か分からなかった。
というのも、連中はどうやら本当の実力を極力隠しながら戦っていたようなのだ。
試合に負けそうになっても曝け出さない徹底ぶりで、勝てないと判断すれば相手を削ることを優先して立ち回っていた狡猾なチームである。
おかげで彼らがどうやって第二試験を突破したのか未だ分からず終いだった。
「アイツらか……見た目からして不気味な連中だよな。どんな隠し玉を持っているか分からないっていうか。お前が負けるとも思えないが、気を付けろよ」
「ああ、きっちり勝って中忍なってくるよ。余裕があればコテツも見に来るか?」
「さっきお前に殴りかかった所為で、しばらくは動きたくないくらい身体が痛ぇ。動けるようになったら見に行くさ」
ま、今は安静にしておかないといけないからな。
あれだけの怪我を負ったんだ。
激しく動き回るなんてあり得ない。
「可哀想に、一体誰にやられたんだ?」
「テメェだよ!!」
俺たちのそんな会話は大人に注意されるまで続いたのだった。