大筒木一族の最後の末裔57

 これから戦うことになる雨隠れの忍の名前は、ガギル。
 全身を覆うような黒いコートにガスマスクを着けている不気味な男だ。
 これまでの戦いでは水遁と土遁を使って巧みに相手を攻め立てていたが、全力を出しているようには見えなかった。
 この中忍試験に参加している忍の中では一番謎に包まれている相手と言っても過言ではない。

 そして、そんな対戦相手は今俺の目の前に立っている。

「よろしくな、ガギルさん?」

「……」

 あれ、無視された? 
 もしかしてシャイなのかな。
 それなら表情を見えないようにするあのガスマスクを着けていることにも納得だ。
 でもさ、これから殺し合う相手だとしても少しくらいは歩み寄る姿勢って大事だと思う。
 握手の為に差し出した俺のこの右手はどうなるんだよ。

「これより決勝戦、大筒木カムイ 対 赤土ガギルの試合を開始する。両者とも準備はいいか?」

「大丈夫です」

「……問題ナイ」

 審判がこれまでと同じような定型文を聞いてきたのでそれに答えると、ガギルはガスマスク越しに機械的で無機質な声を発した。

 声まで変えているなんてよほどの恥ずかしがり屋さんだな。
 てか、どうやって自分の声を変えているんだろうか。
 もしもそのガスマスクにそんな機能があるのだとすれば是非とも俺も一つ欲しい。

「では──開始!」

 おっと、ガスマスクに少し気を取られているうちに試合開始の合図が告げられた。
 先手必勝……と、こちらから仕掛けたい所だが最初は様子を見よう。
 何となくガギルは俺の方から攻撃するのを誘っているような感じがするからな。

 案の定、奴は服の中から数本の発煙筒みたいな物を取り出し、それを一斉に周囲にばら撒いた。

「くッ……!」

 ばら撒かれた筒状の物の先から紫色の煙が勢いよく噴射される。
 咄嗟に距離を取って煙が届かない場所まで移動したが、煙の量が多過ぎてちょっとだけ吸い込んでしまった。
 それにしても毒、か。
 しかもどうやら即効性のある毒のようで身体に僅かな痺れを感じる。

 警戒していたからガスの直撃は何とか避けることが出来たが、身体に異常が出てしまったのでこのまま長期戦になればジリ貧だ。
 今は多少痺れがある程度だけどこれが悪化しないという保証は無いし、そもそも僅かな痺れだとしても忍術や体術には確実に影響してしまう。
 早めに相手を倒して勝利するが吉である。
 初めて毒を食らったが、二度と食らいたくはないと思うくらいには最悪な気分になるな。

「《風遁──大突破》!」

 毒の煙とその中にいるであろうガギルを風遁でまとめて吹き飛ばす。
 この術はまともに食らえばそれだけで戦闘不能になるだけの威力を持っているので、可能性は低いがこれでワンチャン倒せるかもしれない。

 尤も、そんな淡い希望は簡単に打ち砕かれることになる。

 煙を風遁で吹き飛ばしたのだが、そこにガギルの姿は無く、あるのは俺の術で抉れた地面だけだった。

「消えた? ……ッ!?」

 視界から消え失せたガギル。
 しかし、不意に俺の両足を誰かに掴まれた。
 慌てて視線を下に向けると地面から生えた腕ががっちりと拘束しており、地中へ引きずり込もうと徐々に足が埋まっていく。
 足を掴んでいる腕を振り払おうとするが、握力が馬鹿みたいに強い上に周囲の地面が泥のようになっていて中々抜け出せなかった。

 ……あれ、もしかしてこれってまずい? 

 ここまでの試験ではピンチらしいピンチには陥って来なかったが、ジワジワと地中に引きずり込まれそうになると流石に少し焦る。
 少しね、少しだけだけどね。

「《土遁──土波》」

 俺は落ち着いて次の術を発動させた。
 この術は地面を上下に波打たせ、相手の足場を不安定にさせるという基礎的な土遁忍術だ。
 今回は下に潜んでいるシャイボーイを燻り出す為に使う。
 地面が柔らかくなっていたからか思っていたよりも大きく波打ち、それによって俺の足からガギルの腕がようやく離れて拘束から抜け出す事に成功した。

「ふぅ……今のはちょっと危なかった。でもいい加減、そんなとこに隠れてないで出て来いよ。出て来ないのならそのまま土の中で死ぬことになるぜ?」

 体内のチャクラを練り上げながらそう言って相手を挑発する。
 が、反応は無し。
 それならもう仕方ないな。
 このまま相手のペースで戦いを続けるのは趣味じゃないし、ガギル君には悪いけど本当に地中で息の根を止めてやるつもりで攻撃しよう。

「第二ラウンドといこうか。なぁ、ガギル。……いや、ガギルちゃん?」

「……ッ」

 相手の動揺を表すかのように地面の一部が僅かに波打った。
 俺はそれを見逃さず、波打った場所に向かって術を発動する。

「──《土中爆》!」

 次の瞬間、俺からガギルへと一直線に破壊的な爆発が巻き起こっていったのだった。

 

   

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