大筒木一族の最後の末裔58

「くっ……!」

 地面を内側から抉ってしまうほどの爆発が直撃し、地中に潜んでいたガギルを爆発の衝撃で無理やり地上に引き摺り出すことに成功する。
 奴の口から苦悶の声が聞こえてきた。
 そしてガスマスクに小さくないヒビが入り、そこからマスクが半壊する。

 素顔が半分ほど見えているが、やはりガギルは男ではなく女だったか。
 さっき奴のチャクラの流れを見たときに明らかに骨格が女のそれだったからおかしいと思った。
 どういう理由があってかは知らないけど、男のフリをしていたからすっかり騙されてしまったよ。
 ま、女だからって手を抜くことはしないがな。

「まさか女だったとはね。でも、どうして男のフリをしていたんだ? そんな事をしてもあまり意味は無い気がするが」

「お前には関係ない……!」

 割れたマスクの隙間からガギルの鋭い視線が覗いていた。
 確かに彼……いや、彼女について無理に聞こうとするほどの興味もないし、俺に全く関係の無いことだ。
 きっと色々な事情があるんだろう。
 戦いの途中でガギルちゃんと呼んだのも、性別を隠してそうだったから揺さぶるつもりでカマをかけただけで他意はないのだから。

「全く以ってその通りだな。ただ、お前はさっきの爆発をもろに食らって満身創痍だろ。審判はどうやら死ぬ直前まで止めないようだし、早めに降参することをお勧めするぞ」

「はっ。大きなお世話だよ、お前」

 ハスキーボイスで挑発するようにそう言ってくるガギル。
 ガギルは既に立っているのも辛そうな状態だ。
 骨も何本か折れているようだし、ここから反撃して俺を倒すというのは至難の業である。
 正直言ってもう負ける気がしない。

 だが、そんな状態でわざわざ挑発してきたという事は何か奥の手のようなものがある筈だ。
 追い詰められたこの状況を打破できる何かが。
 生憎とそんな見え透いた挑発には乗らない……と言いたいところだが、ここは敢えて乗ってやることにする。

「おっと、そりゃすまん。でもそういう事ならこっちも遠慮なくやらせてもらうぞ」

 このままジワジワと遠距離から術で攻撃していればゴリ押しでも完封できると思う。
 ただ、俺はただ勝利するだけじゃなく実力差を見せつけて勝ちたい。
 だから相手が持っている手札を全て吐き出させた上で、それを打ち破る。
 それをやってのけてこそ彼我の実力差がはっきりするというものだ。

 そう決めた俺はガギルに向かって一直線に突っ込んで行く。

「此方を舐めすぎだ……!」

 すると、戦闘開始直後と同じように服の中から筒状のものを取り出して、それを空中にいくつかばら撒いてきた。
 そしてすぐにその筒から毒の煙が噴射される。
 これは俺が少し吸っただけで身体に痺れが出るくらい強い毒。
 それをこんな風にばら撒けばガスマスクが破損しているガギル自身も毒の煙にやられて無事では済まないだろうし、大量に吸えば最悪死んでしまう恐れがある。

 ま、だからこそ俺の意表を突けると思ったんだろうがな。

 捨て身での特攻なんて簡単に想像できた。
 戦闘開始直後とは違ってガスマスクが破損しているから、本当にやってくるかどうかは半々くらいだったけど。

「それが切り札か? だとしたら少し拍子抜けだぞ」

 毒については当然警戒していた。
 むしろ初っ端で食らったものを警戒するなという方が難しい。
 ガスなんて要は呼吸を止めて吸い込まなければ良いんだろ?

 俺は足を止めることなく身体にチャクラを流し、身体能力を引き上げながら一番得意な格闘術に持ち込もうとする。

「──《毒龍操波の術》!」

「おっ?」

 しかしガギルが素早く術を発動すると、大量の毒の煙がひと塊りとなって俺に襲い掛かってきた。
 毒の煙が龍の姿を模してこっちに迫ってくる。
 流石にこれは息を止めていれば良いというものでもなさそうだな。
 それじゃあ龍には龍で対抗するとしよう。

「《火遁・火龍炎弾》!」

 コテツ戦でも使用したこの術は、単純な破壊力だけなら毒龍よりもはるかに上だろう。
 煙にも効果があるのかは微妙なところだったが火の化身は毒龍を容赦なく焼き尽くしていき、さらにその術者であるガギルにまで襲い掛かる。

「ぁ……」

 もはやこれを退けるだけの力は彼女には残っていない。
 そしてあと瞬きひとつで彼女を焼き尽くす──と、そこで俺は術を解いて火龍を消し去った。
 もう勝負はついた。
 わざわざ相手を殺したくはないし、ここまでやれば誰の目からみても俺の勝利は確実だ。
 
 ガギルは切り札だった毒龍が完全に通用しなかったことに呆然とし、チャクラと体力切れでその場にへたり込んでしまった。

「ま、負けた……」

 戦意を失って俯いているガギルにはもう向かってくる気配はない。
 これ以上やるのかという視線を審判に向けると、ようやく俺の勝利を宣言してくれたのだった。

 

   

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