中忍試験は俺の優勝によって幕を閉じた。
木ノ葉上層部の要望通り、他国に力を見せつける感じで上手く立ち回れた筈だ。
恐らく今回は同盟以外の里からの間者が混じっていると思われるが、その中で多くの国や隠れ里に木ノ葉の力を示せたと思う。
中忍へ昇格する基準とやらかイマイチよく分からないので多少不安もあるが……まぁ、ここまでやって選ばれなければ仕方がないというものだ。
その時は紅さんに慰めてもらおう。
「よぉ。いい試合だったぜ、カムイ」
表彰式が始まるまで控え室で待機していると、松葉杖を突きながら現れたコテツはそう言って笑いながら俺の横に腰を下ろした。
コテツは頭と左腕には包帯が巻かれていてとても痛々しい。
見えないが恐らく服の下も同じような状態だろう。
一体誰がコテツをこんな酷い目に合わせたんだ……あ、俺だった。
「なんだ、もう動いてもいいのか?」
「こうして歩くくらいなら大丈夫だ。それに、最後くらい無理をしてでも顔を出さないと締まらないだろ。……ま、こんな姿じゃ格好がつかないが」
そう言ってチラチラと同情を誘うような視線を送ってきた。
フッ、残念ながら俺は男に対しては余程な事がない限り同情なんてしないんだよな。
ただまぁ、そこまで言うなら望み通りに手を貸してやるか。
「よしっ、そういう事なら俺のとっておきの術を披露してやろう。試合だったとはいえ、俺もちょっとだけやり過ぎたみたいだしな」
「とっておきの術?」
「ああ。最近、自己流で医療忍術を練習しててさ。それで生まれた術なんだが、すこぶる効果がある凄い医療忍術なんだ。何せ死にかけてた魚が一瞬で元気になったからな。だから俺の治療を受ければ、コテツもきっとすぐに走り回れるくらいには回復するぞ」
「へぇ、そりゃスゲェな。んじゃ早速頼むよ」
「任せときな。ま、その魚は10秒後くらいに内側から破裂しちゃったけど……人間なら多分そんなに酷いことにはならないだろ」
あれは流石に驚いた。
遂に医療忍術が使えるようになったかと喜んだのも束の間、目の前でピチピチと元気に飛び跳ねていた魚が急に爆散したんだからな。
早速自分の身体でも試してみようと張り切っていたが、その光景を見てからこの術は怖くて使っていない。
「……ん? 破裂?」
「人間相手に試すのはこれが初めてだが、魚が爆散するくらい回復するってことは劇的に回復するって事だと思うんだ。責任持って治すから俺に任せてくれ」
「ちょ、待て待て! お前は責任って言葉の意味を知ってるか!?」
「大丈夫。痛いのは一瞬だから。それを越えれば楽になれるから」
「楽になったら死ぬだろうが!」
笑みを浮かべながらにじり寄って来る俺に本格的に恐怖を覚えたのか、座っていた椅子から転げ落ち、そこから顔を青ざめさせながら後退していくコテツ。
沸々と嗜虐心が刺激される顔だ。
おっと、こいつの反応はとても面白いからついついやりすぎてしまうな。
流石には怪我人相手にこれ以上負担を掛けるのも可哀想なのでこの辺で止めておくか。
「冗談だって。ほら、座れよ」
「目がマジだったぞ、お前……」
失礼な。
俺だって最低限の良識は持ち合わせているさ。
せっかく出来た友人にそんな酷いことする訳ないじゃないか!
あ、でももう一度コテツと戦うことになったら、今度こそ一撃で沈めてやろうと思います。
「まぁいいや。それより、あの雨隠れの忍がまさか女だったとはな。気付いてたか?」
話題は雨隠れの忍、ガギルの話へと移り変わる。
「いんや。俺も戦っている途中で気付いた。でもガギルの性別より、俺は試合後のあいつの様子の方が気になったな」
決勝の対戦相手だったガギルは負けた事がショックだったのか、試合が終わって退場するまでずっと俯いたままの状態だった。
この世の終わりみたいに黙り込み、医療班の忍が来るまでその場から動かなったくらいだ。
いくら対戦相手だったとはいえ多少は気になってしまう。
「最初から最後までよく分からん連中だよな、アイツら。決勝まで残ったんだからそれを素直に喜んでいれば良いのによ。まだ結果はどうなるかなんて分からないし、そこまで落ち込む必要はないだろうに」
「向こうの里にも色々と事情があるんだろ。変に考えない方が良いかもな」
ガギル達は雨隠れの里の忍だ。
大国である火の国に仕えている木ノ葉とは違って、忍の質や量ではどうしても劣ってしまうから他の勢力に舐められると一気に全てを奪われてしまう。
だからこそ中忍試験で力を示す必要があったのかもしれない。
上から圧力でも掛けられていた可能性もある。
まぁ、俺だって国同士のしがらみなんかよく知らないから本当のところは分からないけど。
◆◆◆
中忍試験は別に優勝者だけが中忍になれるという訳ではないので、決勝戦のガギルと同じくらい善戦したコテツが中忍に選ばれる可能性も十分にある。
むしろ、死の森で的確に小隊の指揮をしていた事を考慮すれば俺よりも適正はあるだろう。
と、本気でそう思っていたんだが……。
「我ら一同が話し合った結果、今回の試験で中忍に昇格する忍は──大筒木カムイ1名とすることが決定した!」
どうやら中忍に昇格するのは俺一人だけらしい。