大筒木一族の最後の末裔60

「ご苦労じゃった、カムイ」

 表彰式が終わった後、俺は火影であるヒルゼンに呼び出されていた。
 その隣にはいつも通りダンゾウが控えており、最初に会った頃よりは向けられた視線が幾分かマシになった気がするものの、やはり未だに俺のことを疑っているようだ。
 あくまでもそんな気がするだけだけども。

「何とか中忍になれました。それで、この結果はお二人にご満足頂けるものでしたか?」

 ここで不満などと言われれば暴れてやろうかなと思いながら、顔に笑みを貼り付けて俺はそう問いかけた。

「勿論だとも。これ以上ないほどに、君は儂らの期待に応えてくれた。のぅ、ダンゾウよ」

「……まぁまぁだな」

 相変わらず感じの悪い爺さんである。
 こちらを見るその視線には、隠そうともしない敵意が見受けられた。
 注文通り中忍試験を突破したというのに、褒め言葉一つ出てこないなんてどういう了見だこのジジイ。
 お前なんかさっさとサスケに殺されてしまえ! 

「すまんのぉ。此奴とてカムイの実力を既に認めておるし、今回の中忍試験での活躍をとても喜んでいる筈じゃ。あまり気にせんでくれ」

「大丈夫ですよ。これくらいで信頼を勝ち取れるとは思っていませんから。地道にやっていきます」

「そう言って貰えると助かる」

 心の中では中指立てているけどね! 

「まずは今回の任務の報酬だ。あまり公には出来んから、その分報酬には色を付けておいたぞ」

「ありがとうございます」

 俺はヒルゼンから分厚い封筒を受け取った。
 中身は確認していないが、少なくとも軽く百万以上はありそうだ。
 縦にしても立ちそうなくらい分厚いからね。
 これで一気に小金持ちである。
 紅さんやガキンチョ共に美味い飯でも奢ってやろう。

 難易度的には思っていたよりも高くなかったので、この前カカシ先生と一緒に行った抜け忍の討伐よりも額が多くて驚いたが、これから中忍になるから額もそれに応じて引き上げられるらしい。
 上忍になれば報酬は更に跳ね上がるとの事。
 任務に対する意欲がグンと上がった気がする。

 ……はっ、これはもしや金で懐柔されているのでは? 

 いやいや、以前から上忍に昇格することをとりあえずの目標にしていたからセーフ。
 決して金に釣られたわけではなく、ハーレムの大義名分を得たいが為だから。
 うん、どちらにせよ馬鹿っぽい理由だった。
 俗物街道まっしぐらである

「それはそうと、カムイよ。お主に一つ提案があるんじゃが……」

「なんです?」

「暗部に入ってみる気はないか?」

 俺はヒルゼンからの提案に少しだけ考える素振りをする。
 暗部っていうのは暗殺を始めとする、あまり公には出来ないような特殊な任務を遂行する者達のことだった筈だ。
 当然ながら要求される忍としての実力は高く、それでいて危険な任務ばかり請け負う事になるというブラック企業待った無しの職場。

 あのカカシ先生が心を病んでしまうほど過酷な環境で、俺程度では半年も保たずに逃げ出してしまう自信がある。
 だからこそ、俺の答えは初めから決まっていた。

「お断りします」

「一応、理由を聞いても良いかの?」

「暗部に入れば使い潰される未来しか見えません。正直、今の俺はそこまで木ノ葉への忠誠心を持っていませんしね」

 俺は命をかけて木ノ葉に尽くそうなんて殊勝なことは微塵も考えていない。
 あくまでも打算ありきで身を寄せているだけだ。
 軽い気持ちでこの話を引き受けると碌なことにはならないだろう。

「ほぅ? では貴様は木ノ葉をいつでも裏切る可能性があると、そういうことだな?」

「落ち着いてください、ダンゾウ様。木ノ葉の里に裏切られない限りは俺も決して木ノ葉を裏切りませんよ。この里は俺の故郷ではありませんけど、それでも骨を埋めるくらいの覚悟は額当てを受け取った時に出来ていますから」

 短気なご老人を何とか宥めつつ、俺は話を続ける。

「あくまでも暗部として生きるほどの忠誠心は無いって話です。それに、この里に来たばかりの奴が忠誠心どうのって言っても大して信用できないのではありませんか? なら、変に誤魔化すより本心で話した方がいいかなと思いまして」

 木ノ葉には紅さんやナルト、そして日向一族がいる。
 彼らが居る限り俺がこの里を裏切る事はない。

「ほっほっほ。そうか、なら仕方ない。儂やダンゾウはお主ほど優秀な忍が里を抜けてしまわないか心配でのぉ。要するに正当な対価を払えばカムイはこの里を裏切らない、そういう事じゃな?」

「ええ、その通りです」

 俺がそう断言すると、ヒルゼンは好々爺のような笑みを浮かべた。

「ならばよい。これからも頼んだぞ、カムイよ。ほっほっほ」

 

   

スポンサーリンク

タイトルとURLをコピーしました