ポイントルーラー7

「マジか……まさかこんなに大量のポイントを獲得できるとは思わなかったな」

 俺はステータス画面に表示されている『15848』という数字を見て、そんなことを呟いた。

 このポイントの出所を考えればかなり不謹慎ではあるが、これがあればずいぶんと気持ちが楽になる。
 何せこれだけ大量のポイントがあれば、俺を生死の狭間から救い出してくれたあの不味いポーションだってダース単位で購入できるし、10億ポイントもする『エクスカリバー』はともかく、そこそこ強そうな武器や防具と交換できるはずだ。

 まともな武器があれば少なくともゴブリン相手に遅れを取ることも無くなるし、もしも怪我を負ってしまってもポーションという選択肢があるというだけで心に余裕が生まれる。
 できればやりたくはないが、多少無茶なこともできるようになるのだ。

「そういえば、レベルが上がったとかいうアナウンスも流れていたな」

 五体のゴブリンを倒した後、頭の中に響いてきた機械的なアナウンスを思い出す。
 ステータスをもう一度確認してみると、たしかにステータスのレベルが2になっているし、魔耐以外のパラメーターがそれぞれ上昇していた。

 ただ、そこまで身体が変化しているようにはあまり感じない。
 たとえば筋力の数値が3から5に上がっているが、多少力がついたかな?程度でしかないのだ。
 少なくともレベルが一つ上がってくらいでは、明らかに実感できるほどの違いはなかった。

 他の項目もイマイチ確認手段が分からない。
 耐久が元の数値から倍になっているが、試しに頬を抓ってみても普通に痛かった。

「もう少しレベルを上げていけば、いずれは超人みたいになれるのか? それはちょっと憧れるけど……」

 そうなれば、あの筋肉ゴブリンとかドラゴンを倒せるようになるかもしれないな。
 倒せなくとも最低限逃げ切るくらいはできるようになっておかないと、今の状況では長生きできそうにない。

 ま、とりあえず何か武器になる物を『ポイント交換』で手に入れて、あとは念のためステータスも上げておいた方が良いだろう。
 それから、今あるポイントで有用なスキルが交換できるかは分からないが、そちらも確認しておかないとな。

 そして『ポイント交換』で表示されている画面と睨めっこすること数分、ようやく満足のいく状態になった。
 今の俺のステータスはこうだ。

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 秋月 千尋 20歳 男 レベル2

 種族:人間

 筋力:5→10
 耐久:4→10
 敏捷:5→10
 魔力:9→10
 魔耐:3→10
 精神:11

 ポイント:4948

[職業] ポイント使い

[装備] 鋼の槍・ミスリルの鎖帷子

[スキル] ポイント獲得・ポイント交換

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 とりあえず、精神以外の全てのステータスを10にするのに2400ポイント使った。
 本当はもっと上げておこうと思っていたんだが、10から11に上げるのに必要なポイントが500も必要になるらしく、一旦10で止めておくことにしたんだ。
 このステータスの数値にどこまでの効果があるのか、今はまだよく分からないしな。

 他には武器と防具もしっかり揃えた。
 特に防具はかなりのポイントを使って、『ミスリルの鎖帷子』というのを購入している。
 ファンタジーではお馴染みのミスリル装備だが、なんと7000ポイントというかなりの高額商品だった。
 これで中途半端な性能なら泣くぞ……。

 そして、武器はとりあえず『鋼の槍』を選択している。
 ポイントも1500とお手頃……と言っても現金換算で15万円もする武器だ。
 包丁よりは遥かにリーチも長いし、たぶんゴブリン相手なら余裕で倒せると思う。

 その二つを身に付けるとステータスの欄に[装備]という項目が追加され、そこに今装備している武器や防具が表示されるようだ。
 ここまでくるとまんまRPGゲームと一緒だな。
 俺にとってはこれ以上ないくらい分かりやすいから非常に助かる。

 ちなみに『ミスリルの鎖帷子』はとても軽く、あまり重さを感じない。
 軽すぎてむしろ少し不安になるが、軽く槍で突いてみても痛くなかったのでたぶん大丈夫だろう。

 スキルも一応見てみたんだが、使えそうなやつは馬鹿みたいに高い。
 残りのポイントで交換できるのは『口笛』や、『絵描き』という意味の分からないものだけだったし、説明文を見てもイマイチ用途が不明だった。
 そんなものをわざわざ選択する余裕なんて今の俺には無いから、スキルの取得は一先ずお預けにしておく。

 使えそうなスキルとして目に入ったのは、10000ポイントで交換できる『格闘』がある。
 ただ、今はそれよりも装備を整えた方が良いだろうという判断で今回は見送った。
 これはいずれポイントに余裕ができたら交換するつもりだ。

 いくつか欲しいスキルの目星は付けているけど、気軽に交換できるような価格ではないので取得する目処はまったく立っていない。

 俺はステータス画面を閉じ、ゆっくりと立ち上がる。

「さてと、じゃあさっそく――家捜しといこうか」

 装備も整え、準備はできた。
 このマンションにはまだあの筋肉ゴブリンがいる可能性もあるが、丸一日放置されてたってことはおそらく大丈夫だろう。
 マンションの外をあてもなく彷徨うよりは遥かにマシだしな。

 俺がやろうとしていることは完全なる火事場泥棒だ。
 しかし、お世話になった夫妻の部屋を荒らした今、赤の他人の部屋に押し入ることに何の抵抗も感じない。

 普通ならこんな非常時に現金などなんの役にも立たないが、俺にとってはまさに宝の山だ。
 村田夫妻の部屋からは15000以上のポイントが獲得できたし、ゴブリン達によってほとんど無人になったこのマンションを見逃す手はないだろう。

 もちろん、部屋の中に生存者がいれば無理やり奪ったりせずに放置するつもりだ。
 赤の他人を助けようとは思えないけど、かと言って害するつもりもない。
 自分でも割と世紀末な思考をしているとは思うが、それでも線引きは必要だと思うからな。

 右手で鋼の槍を握りしめ、服の上からミスリルの鎖帷子をしっかりと着込み、俺は部屋の外に出るため警戒しながらドアノブに手を掛けた。
 ……この状況にどこか高揚している自分を必死に押し殺しながら。

 

   

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