「うぁ、あうぅぁぁぁ……」
目の前にいるゾンビは部屋に入ってきた俺に気づいたようで、うめき声を上げながらゆっくりと接近してくる。
しかし、コイツは早く移動する事ができないのか、俺の方に近づいてくる速度は非常にゆったりとしたものだった。
なので慌てる必要はない。
嚙みつこうとしてきたゾンビの攻撃を余裕でかわし、距離を取ってから落ち着いて狙いを定める。
狙いは頭の脳幹だ。
ゾンビってのは頭を破壊しないと死なないらしいからな。
だらしなく半開きになっている口目掛けて、槍を一気に突き刺す!
「――っぅぁ」
狙いを絞って放った一撃は見事口の中に突き刺さり、ゾンビの腕がダラリと下がって脱力した。
おそらく絶命したのだと思う。
念のため槍を引き抜いた後も2、3回身体に突き刺してみたが、ピクリとも反応しなかった。
ゾンビにこの言い方が正しいのかは不明だけど、確実に死んでいる。
所詮はこのゾンビも、ゴブリンと同じバケモノだ。
元は人間だったのかもしれないが、襲い掛かってきた敵を撃退するのは当たり前である。
……ま、いくらバケモノとは言え、人間の姿をしたやつに槍を突き立てるってのはあまり良い気分ではないけどな。
日本っていう争い事とは無縁の国で育ったのだから仕方ない。
「コイツもポイントにできるのか? できれば死体処理が楽になるが……あぁ、できた」
俺の懸念を余所に、ゾンビの死体はすんなりとポイントに変換できた。
わざわざご丁寧に埋葬してやれるほど、今の俺に余裕がある訳じゃないからとても有り難い。
ポイントにされたゾンビの人だって、このまま異臭を放って腐っていくよりは幾分かマシだろう。
ちなみに、ゾンビの死体で獲得できたポイントは1ポイントだけだったよ。
さっきの強さを考えれば納得ではある。
ゴブリンよりも動きが緩慢で単調だから、行動が読みやすくて簡単に倒せたし。
さ、邪魔者は排除したあとは、お待ちかねのポイント集めの時間だな。
……と思っていたんだが、この部屋は臭いの元を絶ったと言っても未だに異臭が充満している。
窓を開けて換気したから大分マシにはなっているんだが、むしろ新鮮な空気が入ってきたことで鼻が正常な働きをするようになってしまったんだ。
結局この部屋の臭いに堪えかねて、ここの探索は途中で切り上げざるを得なかった。
体調を崩してしまえば本末転倒だからな。
「次だ次。いつまでもあんな所にいちゃあ、こっちまで気が滅入っちまう」
俺は足早にゾンビがいた部屋を後にする。
そしてその後は10階の他の部屋、11階、そして12階の部屋を全て回り、何事も問題なくポイントの回収を行うことができた。
幸いにもゴブリンやゾンビには遭遇することはなく、極めて順調かつスムーズに事が運んだのである。
ただ、いくつかの部屋に乾いた血だまりの跡があったのは少しビビったな。
いかにもホラー映画とかゲームに出てきそうな呪われた部屋です、って感じの雰囲気で、あまり長居したいとは思えない空間だった。
たぶんゴブリンが人間を殺して食った現場なんだと思う。
そのゴブリンの姿がまるで見えないのは、正直かなり気になるが……。
まぁ、こればっかりはいくら考えても答えは出ない。
これだけ音を立ててもゴブリンが出てこないってことは、もうこのマンションにはいないのかもしれん。
エンカウントしたのはゾンビ一体だけで、ゴブリンの姿は影も形もないし。
楽観的すぎるかもしれんが、どうせ部屋を回ってポイントを回収しなければ迂闊に外も歩けないんだ。
それくらい気楽に考えていた方が精神的にも余裕ができる。
それよりも3階分の部屋から回収できたポイントは、なんと全部で39782ポイントだ。
これで俺が持っている総ポイントは43115ポイントであり、過去最大記録を大幅に更新したことになる。
ギリギリで死にかけていた頃のポイント極貧生活が遠い過去のようだ。
そのポイントを使ってステータスのパラメーターを上げようかとも思ったが、一応まだ保留にしてある。
実はゾンビと戦う前にステータスを強化した結果、戦闘時に少しだけ違和感を感じたんだ。
本当に些細な違和感だけどな。
たぶん急に身体能力を上げたことで、俺の脳が変化に追いついていけなかったんだと思っている。
判断材料が少なすぎて詳しいことは不明だが、それでも違和感を感じたことだけは間違いない。
それが原因で致命的なミスを誘発しかねないので、しばらくステータスを弄るのは控えておくことにしたのだ。
ステータスを20から21に上げるには、なんと1000ポイントも必要になるということも放置している理由の一つではある。
そして、俺はついに最上階への非常階段の前までやってきた。
「いよいよ最上階だ。噂では結構な富豪たちが住んでいるとかいう話だったが、果たしてどこまで本当なのかね……」
このマンションの最上階は、他の階とは違って部屋の数が少ない。
つまり、一部屋一部屋が広い構造となっているのだ。
そのぶん家賃も高めに設定され、最上階ということもあって一般人には到底住めない額になっているらしい。
だから、当然住んでいる人たちも金持ちということになり、このマンションの中では一番期待できる階層という訳である。
ま、金持ちだからってポイントになりそうな物が多くあるとは言い切れないけど。
そんなことを考えながら階段登りきった俺は、一番手近な部屋の扉を蹴破ってポイントの回収を開始した。
すると出るわ出るわお宝の山が。
何か悪いことをしていたんじゃないかと邪推してしまうくらい、宝石やら高そうなアクセサリーなんかが大量に出てくる。
高価な物が多かったのでこの部屋は念入りに探し回り、根こそぎ回収させてもらった。
ここまでポイントになる物が多いと、手慣れたはずの回収作業も楽しく感じる。
まさにウハウハ状態だ。
そうして最上階にある他の部屋の探索ももちろん行っていき、その全てをポイントに変換してやった。
本当に今更だが、俺がやっていることが持ち主たちにバレれば殺されそうだな。
だからと言って止めるつもりは一切ないが。
そして最後の部屋の前に立つ。
もはや呼び鈴やノックなどせず、どうせ誰もいないのだからといきなり扉を蹴破った。
部屋の中に土足で侵入し、まずはリビングの方へと向かう。
しかし、そこで俺の身体がピタリと止まった。
視線の先にある見慣れない物を見て、興奮していた脳みそが急激に冷えていく。
「――動かないでください。動けば撃ちます」
「ッ……」
最後の部屋に居たのはゴブリンでもゾンビでもなく、馬鹿でかい〝スナイパーライフル〟を構えた人間だった。