雫からの提案で、しばらくは彼女と一緒に行動することになった。
ただ今後も雫と一緒に行動するのなら、ある程度お互いのスキルについて話し合っておいた方が良いだろうな。
危機に陥った時、味方の力を正確に把握していないと咄嗟に取れる行動がかなり制限されてしまうし、それが原因で大惨事になりかねない。
筋肉ゴブリンみたいに桁外れな強さを持つバケモノがいるんだから、少しでも不安要素は取り除いておくべきだ。
そして何より、雫には俺のポイント回収を手伝ってもらいたいと思っている。
まだ日が落ちるまでには時間があるが、それでも今までの作業時間を考えると、俺一人では日中にマンションの探索を終わらせることはほぼ不可能なのだ。
エントランスがある一階を除いても、まだあと7階分の部屋を回らないといけないからな。
だから俺のスキルを正直に雫に話して、ポイントの回収を手伝ってもらった方が効率が良い。
もちろん協力してもらうんだから、それなりに見返りを渡すつもりだ。
武器……はスナイパーライフルがあるから必要無さそうだけど、防具とか食料とかなら雫も嬉しいだろう。
そう思って俺が口を開こうとするが、それよりも先に雫の方が話しかけてきた。
「秋月さん、良ければお互いの能力について詳しく話しておきませんか? これからは援護し合わなければいけませんし、生き残るためにもできれば情報を共有しておきたいです」
おっと、俺から提案しようと思っていたが、まさか雫の方から言ってくれるとは有り難い。
「いいぞ。ちょうど俺もそう思っていたところだ」
俺がそう言うと、雫はホッとした様子で微笑んだ。
「それは良かったです。では言い出した私の方からお話ししますね。まず、私が選択した職業は『FPSプレイヤー』というもので、突撃兵、狙撃兵、衛生兵に切り替えて戦う職業です。それぞれアサルトライフル、スナイパーライフル、ハンドガンと治療キットが使えて、モンスターを倒すとポイントが手に入ります。それで武器を強化していく職業みたいですね」
「……これはまた随分とファンタジー要素が薄い職業だな。本当にゲームみたいだ」
俺の職業も大概だが、雫の『FPSプレイヤー』ってのはファンタジー要素が無さすぎる。
ま、剣よりも銃火器の方が強いだろうから心強い。
スナイパーライフル以外にも武器が使えるのも良いな。
銃の腕がそんなに無くても、アサルトライフルとかを使えば簡単にモンスターを倒せそうだし。
「他の選択肢には確か『冒険者』とか『狩人』とかがありましたけど、これだけ異色を放っていたのでそれを選んだんです。FPSゲームは結構やっていましたし」
へー、俺もFPSはよくやっていたから、もしかすると何かのゲームで一度くらいは対戦しているかもな。
まぁ、だからなんだという感じだけど。
それにしてもFPSプレイヤーか……。
俺ももし『FPSプレイヤー』なんてものがあれば、たぶんそれを選んでいた。
隣の芝生は青いとはよく言ったもので、少しだけ雫が羨ましい。
「それじゃあ、次は俺の番だな。俺は――」
俺は雫に『ポイント使い』の能力について話した。
今回の話し合いに隠し事は一切なしだ。
自分の手札をむやみやたらに言いふらすのは愚かだが、相手が雫であれば大丈夫だろう。
話していて感じるが、彼女は歳下とは思えないほどに頭が良い。
少し考えれば下手に俺のスキルを広めて敵対するより、友好的な関係を築いておいた方が良いと分かるはず。
もしも雫が変な真似をすれば、その時は然るべき対処をするさ。
いくら相手が女や子供であろうと、な。
そして俺の説明が終わると、雫は顎に手を当てて深く考え始めた。
「……なんですか、そのチートは」
それが俺の能力を聞いた雫の第一声である。
「いやいや、そっちの方が良いだろ。銃の威力なら大抵モンスター相手を一方的に殺せるだろうし、その上銃の強化もできるんだぞ? 確かに俺の能力は使い勝手が良いけど、戦闘には向いていないからよく死にかけるんだ」
「私が同じ状況なら間違いなく死んでいると思いますが……。それに、ポイントを大量に集めればステータスを上げられるんですよね? あとスキルも。なら長い目で見れば些細な問題しかありませんよ。食料とかの問題も気にする必要がありませんし」
……そう言われてみれば、俺の能力って中々に優秀だよな。
いや、優秀なのは分かっていたが、今まで死にそうな目に何度も遭ってきたから感覚がマヒしていた。
俺の『ポイント使い』は雫の『FPSプレイヤー』に負けてないどころか、将来性を考えればぶっちぎりで優秀な職業のようだ。
雫がチートと呼ぶのも頷ける。
「予定変更です。さっきはしばらくの間と言いましたが、サバイバルをする上で貴方の能力は欠かせません。だから末永くよろしくお願いします、秋月さん」
そう言って、雫は改まった態度で俺に頭を下げた。
俺の能力を聞いてからと考えれば多少現金な気もするが、今の物騒な世界ならそれくらい強かな方がちょうどいい。
大して知らない奴を仲間にするよりも、頭の回転が速い雫を仲間にしておくべきだろう。
「ああ、俺としても信頼できる仲間が増えるには歓迎だ。改めてよろしく頼む」
「では早速ポイントに貢献しますね。こちらへどうぞ」
先導する雫の後に大人しく付いていくと、でかい鏡が置いてある部屋に案内された。
そこはまさに金持ちの部屋って感じの空間で、俺の部屋とは同じマンションと思えないくらいの差がある。
経済格差に打ちひしがれている俺をよそに、前にいる雫の声が聞こえてきた。
「この部屋にある物は全てポイントに変換してもらって構いません。たぶんそこそこ価値はあると思うので、それなりにポイントへ変換できると思います」
「……いいのか? 俺としては有り難いけど、後で返してくれって言われてもたぶん無理だぞ?」
「構いませんよ。どうせもう必要ないでしょうし」
どこか雫の様子がおかしいようにも感じるが、彼女自身が良いと言っているのなら大丈夫だろう。
「そうか? なら有り難くポイントに変えさせてもらうよ」
「はい。今後優遇して欲しいという下心もありますから、気兼ねなくポイントにしてください」
「それを口に出したら意味がない気もするが……まぁいいさ。ポイントにされたくない物があれば言ってくれよ」
「了解です」
だが結局、雫が必要と言う物はひとつも無かった。