俺たちはゴブリンとの戦闘を度々挟みつつも、無事に道中にあったコンビニ全てからATMを回収することに成功した。
宝石店に向かう途中にあったコンビニは3店舗で、つまり回収したATMは全部で3つだ。
正確な金額はぶっ壊して中の現金を取り出すまでわからないが、これだけでもたぶん5、6千万くらいにはなるんじゃないだろうか。
ポイント換算すれば数十万ポイントにもなり、今からポイントを使うのが楽しみになってくる。
それだけあればスキルや装備なんてほとんど交換し放題だろうし、考えるだけで夢が広がるというものだ。
ただ、いくらポイントに余裕があったとしても、今後もATM荒らしは積極的にやっていくつもりでいる。
わざわざ転がっている宝箱を見逃す必要は無いし、現状では一番確実にポイントが稼げる手段だからな。
あ、そういえばさっきの戦闘でまたレベルアップした。
出来るだけ戦闘は避けてはいたが、それでも結構な数のゴブリンを雫と一緒に倒したんだ。
俺よりもレベルが高かったとはいえ、たぶん向こうも一つくらいは上がっていると思う。
それで、今のステータスはこうなっている。
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秋月 千尋 20歳 男 レベル2→4
種族:人間
筋力:25→30
耐久:20→22
敏捷:25→29
魔力:10→13
魔耐:13→15
精神:11→19
ポイント:10348
[職業] ポイント使い
[装備] 鋼の槍・ミスリルの鎖帷子
[スキル] ポイント獲得・ポイント交換・格闘・槍術・アイテムボックス
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最後にステータスを確認した時からレベルが2つ上がり、それに伴って各パラメーターも結構上がったみたいだ。
1上げるだけでも500、1000ポイントが必要だと考えれば、このレベルアップによる上昇はかなり有難い。
てか、精神の上昇幅だけ異常に高くないか?
別に高すぎて困ることは無いだろうけど、これに関してはイマイチどういう効果があるのか分からないな。
他の項目は大体の予想がつけられるのに……。
ま、今はそれについての考察は置いておこう。
「あれが目的の宝石店ですか。学生だった私には縁の無いお店ですね」
マンションから出発して約2時間、ようやく目的地である宝石店が見えてきた。
元は高級店として上品な雰囲気の店だったのだろうが、今では近くに人間の死体やらボロボロの自動車などが放置されているため、もはや見る影もない。
「俺も直接は入ったことないけど、この辺りでは結構有名な店だったはずだ。だからきっと大量にポイントを稼げる……と思う」
「お店の外観を見る限りでは相当稼げそうですけど、誰かに先を越されているかもしれませんからね」
「ああ、その通りだ。しょうもない結果になる可能性だって十分に考えられるな。ただ、その時の保険はもう十分にあるから、そこまで心配はいらないだろう」
「保険?」
「さっきまでせっせと回収してたATMだ。それだけでもうかなりの収穫になる。言ってしまえば、これから行う宝石強盗はついでみたいなもんなんだよ」
もしも既に店の中が空っぽだったとしても、回収した金額を考えれば黒字だろう。
ここまで遠征してきた成果としては十分だ。
だから、たとえ強盗が不発に終わってもそれほど問題はない。
もちろん、成功するに越したことはないが。
「強盗がついでって……。でも、確かにそうですね。ならマンションでやっていた時みたいに、気楽にパパッといきましょう」
アイテムボックスの中からヘルメットを二つ取り出し、そのうちの一つを雫に渡す。
それから、商品を回収する為の大きめの手提げカバンも渡しておく。
「いよいよ、ですね……」
「なんだ、ビビってるのか?」
「ふふ、まさか。むしろワクワクします。ただ、少し前までの自分からは想像も出来ないくらい悪人になってしまったな、と」
「ははっ、そうだな。死んだら間違いなく地獄行きだろうさ」
「今は非常時ですし、きっと神さまだって許してくれますよ。――さぁ、行きましょう!」
雫は俺に発破をかけるようにそう言って、俺が渡したヘルメットを被った。
そしていつのまにかスナイパーライフルからアサルトライフルに持ち替えている。
やはり心配するまでもなく、彼女のやる気はバッチリみたいだ。
率先して進んでいく雫の後ろをついていく。
こうして見れば小さい背中だけど、その背中がずいぶんと頼もしく感じるな。
年齢や見た目に似合わず凄まじい度胸と行動力である。
すると数歩だけ歩くと、雫はパッと俺の方に振り返った。
「どうした?」
「……あの、秋月さん。行く前にヘルメットの顎部分の調整をお願いします。どうも自分じゃ中々上手くできなくて……」
雫は申し訳なさそうに、聞き取れるギリギリの声量でそう言った。
普段は冷静な表情を崩さない彼女だが、今はもしかすると恥ずかしさで赤面しているかもしれないな。
もっとも、ヘルメットのおかげでその表情を見ることはできないが。
「ほら、やってやるからこっち向け」
「……お願いします」
雫は素直に頭を俺の方に向けた。
ヘルメットを被ったやつがヘルメットを被ったやつに頭を差し出している。
傍から見れば、かなりシュールな絵面になっていることだろう。
「さぁ、今度こそ行きましょう!」
さっきの失敗を無かったことにしたいのか、改めて元気よく仕切り直した。
実は雫は天然キャラなのかもしれない。