「はむはむ……うまうま」
「……昨日も思っていたけど、お前ってすげぇ幸せそうに食うよな」
見ている俺まで幸せな気持ちになりそうなくらい、雫が美味しそうに特上のうな重を頬張っている。
元々、雫の容姿はアイドル以上に可愛らしい顔立ちをしているので、リスのように口を膨らませていても普通に絵になっていた。
本当に不思議なのは、雫の表情自体にはあまり変化が無いという事だ。
にもかかわらず、何となく雰囲気で喜んでいるのが伝わってくるのは一体なんでなんだろうか。
多分それが雫の良さでもあるのだろう。
とにかく、幸せそうで何よりだ。
ま、今は夢中でうな重を食べている雫のことは置いておこう。
俺も同じうな重を食べながら、大量にあるポイントの使い道を考えるとする。
スキルの『ポイント交換』を発動させると、目の前にはお馴染みのウィンドウが出現し、『アイテム・食料・武器・防具・スキル・ステータス』の文字が浮かび上がってきた。
とりあえず、まずはステータスからだな。
俺はウィンドウに表示されているステータスという文字をタップした。
オークから雫を抱えて逃げ切れたのは、ポイントでステータスをドーピングしていたからと言っても過言ではない。
今のところ10づつくらいで上げるのに必要なポイントが上がっているが、それを考えても出来るだけ上げておいて損はないだろう。
レベルアップでのステータス上昇も馬鹿に出来ないため、早めに上げておいた方が得だしな。
よって今回は筋力などに尖らせるのではなく、全体的にステータスを底上げするつもりでいる。
今まで効果が不明だった為にあまり重視してこなかった魔力、魔耐、精神のパラメーターにもポイントを割り振る予定だ。
今ならポイントにかなり余裕があるので、少しくらい冒険しても問題はない。
そして、俺は早速全てのパラメーターを35まで上げた。
本当は40くらいにするつもりだったのだが、30から1上げるのに必要なポイントがなんと5000も要求された為、仕方なく35までに留めておいたのだ。
ただ、それでも合計で195500ポイントになってしまったけどな。
21から30までは1000ポイントだったのに、そこから一気に必要ポイントが5倍に跳ね上がるのは予想外だったぜ……。
「ステータスはこのくらいにしておくか」
次はスキルを見てみよう。
とりあえず、前回取得するか迷っていた『取得経験値上昇』と『鑑定』は取っておく事にする。
『取得経験値上昇』:取得する経験値に補正をかける。
『鑑定』:他人のステータスを閲覧できる。
『取得経験値上昇』は45000ポイントで、『鑑定』は40000ポイントが必要だ。
あまり詳しく効果の説明が書かれていないので多少不安もあるが、取得して弱くなることは無い筈だから大丈夫だろう。
他には……お、これなんて良さそうだ。
『状態異常無効』:マイナス効果のある状態異常を全て無効にする。
多分だけど、毒とか麻痺とかを無効にしてくれるんだろう。
まだそんな厄介な物を使ってくるモンスターには遭遇していないが、これからもそうだとは限らない以上、先にこのスキルを取得しておいた方が良いはずだ。
後悔してからでは遅いからな。
げっ、でも80000ポイントもするのか、これ。
……まぁ安全にはかえられないから、高額なのは仕方ない。
少しだけ躊躇ったが、俺は高額なポイントと引き換えに『取得経験値上昇』、『鑑定』、『状態異常無効』の3つのスキルを取得した。
ステータスで使用したポイントと合わせると、既に360500ポイントも使ってしまったな……。
一般市民からすれば恐ろしいほどの浪費である。
今まで使ったポイントの額にビビりながらも、最後に装備を確認する。
俺は鋼の槍、そしてミスリルの鎖帷子を装備しているが、少なくとも鋼の槍はもっと良い武器に変えるべきだろう。
なので、『魔槍アラドホーン』という20000ポイントの槍を交換することにした。
見た目が全体的に黒く、非常に男心をくすぐる逸品である。
きっと凄まじい威力を発揮してくれるに違いない。
ミスリルの鎖帷子の方はまだ変える必要は無さそうだ。
もっと性能の良い防具もあるにはあるが、ミスリルの鎖帷子くらい軽くて丈夫な防具は中々ない。
だからしばらくは、このままコイツを装備していよう。
「雫、装備でなにか欲しい物はあるか?」
「むぐ……それなら近距離戦用のナイフとか欲しいですね。あまり移動とかの邪魔にならない武器が欲しいので」
「ナイフか。なら……これが良さそうだ」
俺は見た目がコンバットナイフに近いものをポイントで交換し、それを雫に手渡す。
雫は若干目をキラキラさせて受け取ったくれたので、俺のチョイスはそこそこ良かったらしい。
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秋月 千尋 20歳 男 レベル4
種族:人間
筋力:30→35
耐久:22→35
敏捷:29→35
魔力:13→35
魔耐:15→35
精神:19→35
ポイント:172442
[職業] ポイント使い
[装備] 魔槍アラドホーン・ミスリルの鎖帷子
[スキル] ポイント獲得・ポイント交換・格闘・槍術・アイテムボックス・取得経験値上昇・鑑定・状態異常無効
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かなりステータスが充実してきたように感じる。
これならちょっとやそっとでは死なないだろう。
あとはコツコツとモンスターを倒してレベル上げをすれば完璧だ。
俺は残った昼飯を一気に口に掻き込み、いつのまにか昼飯を食い終わっていた雫に声をかける。
「そろそろ昼休憩は終わりだ。このビルの屋上から周囲の様子を伺った後、すぐにここを離れるから準備してくれ」
「取りこぼした宝石の回収には行かないんですか?」
「行かない。今から行けばオーク共に遭遇する危険があるし、何よりポイントを大量に獲得した今、そんな危険を冒す必要はないからな」
正直に言えば、パワーアップした今の自分の力を早く試したいという気持ちもある。
だが、そんな俺の身勝手で雫を危険に晒すのは気が引けるし、俺自身も別に死にたい訳じゃない。
力試しはもっと手軽な奴でするべきだろう。
「わかりました。それで、次の目的地はもう決まっているんですか?」
「ああ、次の目的地は……俺の知り合いのところだ。その知り合いっていうのは車やバイクの修理屋なんだが、ここからそこまで離れていないんだよ。だからそこで移動手段を確保しておこうと思っている。それに一晩くらいなら泊めてくれるだろうし、何かとちょうどいい」
もちろん生きていれば、という但し書きが付いてくるがな。
まぁ、それに関しては大丈夫だと思う。
あいつは俺以上にしぶとい奴だから、心配するだけ無駄だ。
「よしっ、じゃあ屋上に――」
俺が立ち上がった瞬間、外からキャー!!という甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。
それを聞いた俺と雫は顔を見合わせ、言葉を発することなくすぐさま戦闘態勢に入ったのだった。