ポイントルーラー26

 雅さんと一緒に行動することになった俺たちは、早速身を潜めていたビルから外に出て、雅さんの妹さんが住んでいるというマンションへと移動し始めた。
 10分くらいで行けるという話だから、ここからすぐ近くだろう。

 もし道中でゴブリンを見つけたら、雅さんにトドメを譲ってステータスを手に入れてもらった方が良いかもしれない。
 問題があるとすれば、彼女にバケモノとはいえ生物を殺せるかどうかってことだ。
 俺にはもうバケモノたちが経験値やポイントにしか見えないが、多分それは結構異常なことだろうからな。

 俺は後ろで雫に話しかけている雅さんをチラッと見た。

「雫ちゃん雫ちゃん、その大きな銃も魔法なの?」

「いえ、これは魔法ではなくスキルで……えーと、まぁとにかく魔法とは違うと思います」

 グイグイくる雅さんに四苦八苦する雫、という構図だった。
 あまりコミュニケーションが得意ではない雫と、明るく社交的な歳上の雅さん。
 ある意味お似合いな良いコンビなのかもしれない。

 なぜ雫があそこまで感情的になったのかは分からないが、きっと何か譲れないものがあったのだろう。

 おっと、そんなことを考えながら歩いていると、少し先に緑色の小さいバケモノ――ゴブリンの集団の姿が見えた。

「二人とも、敵だ。俺が行って倒してくるから、一応警戒だけはして待っていてくれ」

「はい、わかりました」

「わ、わかりました」

 アイテムボックスから槍を取り出し、ゴブリンをパパッと倒しに行く。
 全部で7体の集団だったが、準備運動にすらならない。
 その際に新しく取得した『鑑定』というスキルをゴブリンに試してみたのだが、種族名とレベルしか分からなかった。

 スキルの説明には他人のステータスを閲覧できるとあったので、もっと詳しく見るには何か条件があるのかもしれない。
 やはり地道に検証していくしかないようだ。
 鑑定のスキルは40000ポイントも使用しているので、ゴミスキルだったとはあまり思いたくはないな。

 そして、その7体のゴブリンのうち一体だけは殺さず、瀕死の状態のまま首を掴んで二人の所に持ち帰る。
 もちろん、雅さんにステータスを手に入れてもらうためだ。

「倒してみますか? コイツにトドメを刺せば、おそらく俺たちと同じように何かしらの力を得られると思います」

 俺が片手でゴブリンをグイッと上に持ち上げると、『グギャ……』という呻き声が漏れた。
 それに反応するように雅さんの顔がひきつるが……すぐに強い意志を秘めた瞳へと変化する。

「……わかりました。このまま千尋さんや雫ちゃんに頼ってばかりというのは申し訳ないですし、私もお二人と一緒に戦います……!」

「そう、ですか。じゃあこれを使ってください」

 何となく今使っている『魔槍アラドホーン』を他人に使われるのが嫌だったので、俺がそれ以前に使っていた『鋼の槍』を渡す。
 瀕死のゴブリンにはこれでも十分すぎるくらいだ。
 少し小突けばそれだけでコイツは死ぬだろう。

 あとは雅さんの気持ちの問題なんだが……。

「――えいっ!」

「ギャッ!」

 俺から槍を受け取った雅さんは、思いのほかあっさりとゴブリンにその槍を突き立てた。
 目をぎゅっと閉じながらではあったが、正確に身体の中心に刺せている。
 さて、これで雅さんもステータスを手に入れられた筈だ。

 俺は放心状態になっていた雅さんに声をかける。

「大丈夫ですか? たぶん頭の中に声が聞こえてきたと思いますけど、どうでしたか?」

「え? あ、はい! ステータスを獲得しましたっていう声が聞こえてきました。それで、職業? っていうのを選択してくださいとも言ってます」

 うん、俺の時と一緒みたいだな。
 実例が俺と雫だけだったから少し不安だったが、無事にステータスを獲得できたようで何よりだ。

「よかった。それなら成功したみたいですね。あとはステータスと唱えて、選択肢の中から好きな職業を選べばいいですよ。ちなみにどういう職業がありますか?」

「えーっと、ステータス! わっ、本当に出た。うーん、私が選べるのは料理人、教師、メイド、それから冒険者の四つみたいです」

 冒険者以外は俺の選択肢には無かったな。
 にしても料理人とか教師とか、一体どうやって戦うんだ?
 メイドにいたっては想像もつかない。
 俺のポイント使いや雫のFPSプレイヤーみたいに、飛び抜けて使えそうな職業はないみたいだ。

 ま、どうせ東京から出れば安全なのだから、使えない職業やスキルでもさほど困らないだろうがな。

「さっきも言いましたけど、雅さんの好きな職業を選んで問題ないですよ。戦闘に関しては俺たちだけでも十分ですし、なんなら今は放置しておいて、後でゆっくり考えても良いですし」

「……いいえ。もう決めました。私は『冒険者』を選びます!」

 どうやら雅さんは冒険者を選ぶようだ。
 たぶん、唯一戦闘向きな名前だったから冒険者を選んだのだと思う。
 それでこれが見せてもらった彼女のステータスだ。

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 間宮 雅 24歳 女 レベル1

 種族:人間

 筋力:3
 耐久:4
 敏捷:4
 魔力:6
 魔耐:6
 精神:5

[職業] 冒険者

[スキル] 取得経験値上昇

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 何というか、弱い。
 スキルも一つしかないし、パラメーターも然程高くない。
 やはり彼女は戦闘には不向きだったみたいだな。

「おぉー! これで私も冒険者です! 足手まといにならず、たくさん冒険できますよー!」

そう言って無邪気に喜ぶ彼女に残酷な真実を告げると、目に見えて落胆した様子を見せるのだった。

 

   

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