「グルルル……ガゥ!」
俺たちは今、狼型のモンスターの襲撃を受けていた。
「こいつらゴブリンよりもはるかに素早いぞ! 近づかれないように注意しろ!」
雫と雅さんに注意を促しつつ、クソ狼のうち一匹を槍で両断する。
すると、犬みたいに甲高い『キャイン!』という悲鳴を上げながら血が吹き出し、そいつは俺の経験値になった。
俺は戦闘が始まってから槍を振り回して大立ち回りを演じているが、雫は雫で武器をアサルトライフルに持ち替え、結構な数の狼を倒している。
それも常に雅さんを守りながら、だ。
狼たちの大部分を俺が受け持っているとはいえ、凄腕の傭兵の如く無双している姿はこれ以上なく心強く感じる。
ちなみに、この狼たちに『鑑定』を使ってみれば、次のものが表示された。
《種族:アーミーウルフ レベル5》《種族:アーミーウルフ レベル4》《種族:アーミーウルフ レベル7》etc……。
うん、やっぱりコイツ何の役にも立たんわ!
ゴブリンに使って分かっていたが、あれだけ高額なポイントを使わせたんだから、せめて弱点の一つでも教えろや!
《レベルが上がりました。ステータスを確認してください》
もう一匹追加で狼を倒すと、そんなアナウンスが響いてきた。
この声が聞こえたのは、狼どもとの戦闘が始まって何度目だろうな。
3回を過ぎたあたりから数えるのを止めた……というよりも、そんな余裕はとうに無くなってしまっている。
いい加減、俺もストレスが溜まってきたぞ……。
「チョロチョロと鬱陶しい犬っころ共め! 大人しくさっさと死ね! そして雅!」
「は、はひ!?」
「オロオロして雫の傍から離れるんじゃねぇ! お前は大人しく雫の後ろにピッタリ引っ付いていれば良いんだよ!」
「わ、わかりました!」
あまりにもすばしっこい動きで俺の攻撃を回避するものだから、思わず口から出る言葉が汚くなってしまうな。
可哀相に、雅が怯えてしまっているじゃないか。
それもこれも全部、コイツらが大人しく俺に倒されないからだ。
――もうチマチマやるのはお終いにしよう。
俺は右手の槍をアイテムボックスに仕舞い、そして近くに乗り捨てられていた乗用車を軽々と持ち上げた。
雫と雅の二人から『え!?』と、驚愕したような声が聞こえてきた気がする。
「どっせええぇぇえいぃ!!!」
そして、狼が集まっている所へそれを全力でぶん投げる。
遠心力を利用して俺の手から離れたその乗用車は、放物線を描くことなくほとんど直線で飛んで行った。
次の瞬間には、派手な衝突音が周囲に響き渡り、チョロチョロと動き回っていた狼がそのまま何体か押し潰されて死んだ。
俺が振るう槍を素早く避けていたが、さすがに飛んでくるデカイ車をかわすことは出来なかったらしい。
ふむ、なるほどな。
どうやらこのクソ狼どもには槍なんて上等な物より、そこら中に転がっている車の方が有効みたいだ。
こんなガラクタ、お望み通りいくらでもくれてやるぜ……!
投げる、振り回す、叩き潰す。
道路にはそれなりに多くの車が放置されているから、好きなだけ俺の武器にできる。
車の持ち主がこれを見たら多分、思わず卒倒してしまうような光景だろう。
ま、所詮は他人の車だから俺が気にする必要はない。
「まだまだ行くぞ? お、いい感じのスポーツカーが落ちてるじゃないか。次はコイツだ、犬っころ!」
派手な赤色のスポーツカーはそうして一瞬で廃車になった。
ふと気づけば、あれだけ多くいた狼は一匹残らず死体となっており、それから大量の車が完全なガラクタと化して散乱している。
《レベルが上がりました。ステータスを確認してください》
お、またひとつレベルが上がったみたいだ。
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秋月 千尋 20歳 男 レベル19
種族:人間
筋力:35→124
耐久:35→92
敏捷:35→112
魔力:35→128
魔耐:35→89
精神:35→131
ポイント:173062
[職業] ポイント使い
[装備] 魔槍アラドホーン・ミスリルの鎖帷子
[スキル] ポイント獲得・ポイント交換・格闘・槍術・アイテムボックス・取得経験値上昇・鑑定・状態異常無効
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狼の数が多かったからか元々の経験値が多いのか、この戦闘でレベルが一気に15も上がり、いまや俺のレベルは19となった。
ポイントが少し増えているのは、さっきの狼の死体をポイントへ変換したからだ。
その数なんと62。
一体で10ポイントと、やはりゴブリンよりもかなり多かった。
ま、あの厄介さを考えれば妥当……いや、もう少し多くても良いくらいだろう。
俺がステータスを確認し終えると、雫と雅……さん、が近づいてきた。
「これはまた豪快に暴れましたね。……できれば最初からそうして欲しかったですが」
「んなこと言ったって、さっき咄嗟に思い付いたんだから仕方ないだろ? 俺だってこんなに簡単に片付けられるんなら、最初からそうしたかったよ」
俺が雫にそう返すと、その後ろにいた雅さんと目が合った。
「あー、さっきはすいませんね、雅さん。かなり失礼なことを言ってしまって……」
既に手遅れではあるだろうが、一応は取り繕っておく。
戦闘による興奮と苛立ちで、雅さんには荒々しい言葉をぶつけてしまったからな。
こういうのは早めに謝っておいた方がいい。
しかし、俺が思うより彼女はあまり気にしていない様子だった。
「いえいえ、そんな! 私のことは呼び捨てで構いませんし、敬語も必要ありません。さっきみたいな口調で大丈夫ですから!」
「そう、か。まぁ雅がそれで良いって言うならいいか。俺もこの方が楽だし」
「はいっ、ありがとうございます!」
なぜか笑みを浮かべる雅。
すっかり怯え切っていると思っていたが、どうやらそうでもないようだ。
素の状態で話しても良いと彼女自身が言っているし、このまま楽をさせてもうらうとするか。
「とりあえず、早く先に進もう。結構派手に戦闘音が響いていたから、その音を聞いた別のモンスターが近寄って来るかもしれない。妹さんのマンションまであとどのくらいだ?」
「あ、それならもうすぐそこです。ここからでも見える距離ですよ」
そう言って雅はこの先に見えているマンションを指差した。
長いようで短かった道のりも、ようやく終わりを迎えたようだ。