すっかり日が落ち、外はもう真っ暗になっている。
時折、人の悲鳴やらモンスターの雄叫びやらが聞こえてくるが、それさえ気にしなければ夜空が綺麗な情緒ある夜だ。
……そろそろ電化製品が恋しい。
あぁ、徹夜でゲームがやりたくなってきた。
「……ポエモンでも持ってくれば良かったな」
こうなってくると部屋にゲーム機を全て置いてきたことが悔やまれる。
あの時は非常時で、その上アイテムボックスも無かったから置いてくるしかなかったが、まさかここまで恋しくなるとは思わなかった。
「まぁ、ベッドの上で寝れるだけ有り難いと思うしかないか」
いざとなれば、電気屋に寄ってポエモンを回収しよう。
もちろん他のゲームやテレビの類いも総ざらいしてやる。
データは初めからになるが仕方ない。
そしてベッドの上と言ったが、俺たちはいま、4階建ての比較的小さなビジネスホテルの中にいる。
外観は小さいが一部屋一部屋は結構広々としたホテルで、ビジネスホテルにありがちな窮屈さは感じない。
今晩の宿になるだろうと適当に入ったが、ここで正解だったみたいだ。
もちろん電気やガスは通っていないけど。
ちなみに、顔面蒼白で犬みたいに唸ってくる先住民たちが数人ほど居たが、ちゃちゃっと片付けてポイントになった。
全部で6ポイントだ。
それで、いまの俺のステータスはこうなっている。
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秋月 千尋 20歳 男 レベル20
種族:人間
筋力:124→128
耐久:92→93
敏捷:112→115
魔力:128→132
魔耐:89→91
精神:131→136
ポイント:173068
[職業] ポイント使い
[装備] 魔槍アラドホーン・ミスリルの鎖帷子
[スキル] ポイント獲得・ポイント交換・格闘・槍術・アイテムボックス・取得経験値上昇・鑑定・状態異常無効
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やっぱりレベルアップによるステータスの上昇は凄まじいの一言に尽きる。
狼の集団で大幅にレベルアップを果たした今のステータスは、ポイントで上げるよりもはるかに効率が良い。
今後はもう、ポイントでパラメーターを上げることもないだろう。
さっきチラッと筋力を上げてみようとしたら、必要なポイントの桁がおかしい事になっていたし。
さて、ステータスを眺めるのはここまでにして、そろそろ雫に渡す靴を選ぶとしようか。
俺のスニーカーもそろそろ限界だから、ついでに俺のも選んでおかないとな。
流石に人外の動きで槍を振り回していると、丈夫と評判のメーカーでもあっという間にボロボロになるようだ。
ポイント交換をタップして、更にそこから靴の代わりになりそうな装備を探す。
「お、これなんて良さそうだ。『大天使のブーツ』、それから『悪魔王のブーツ』か。ポイントも中々高いし、これにするか」
大天使の方は白のオシャレなブーツで、悪魔の方は黒い禍々しいブーツだ。
どちらもポイントは15000だから、性能的にはそこまで差は無いだろう。
予想はつくが、一応どっちを選ぶかは雫に任せよう。
これで俺のポイントは143068になった。
まだまだ眠くないし、近くのコンビニに行ってATMを回収してくるのもアリだな。
――コンコン。
すると、唐突に部屋をノックする音が聞こえてきた。
たぶん事前に話があると言っておいた雫が来てくれたのだろう。
念のため覗き穴から外を確認してみると、そこに居たのはやはり雫だったのですぐにドアを開ける。
「ちょうど今から呼びに行こうと思ってたんだ。さ、入ってくれ」
「お邪魔します」
「どこまで適当に座って良いぞ。ジュースでも飲むか?」
「いただきます」
缶に入ったオレンジジュースを渡し、俺も座って話し合いの体勢を取った。
そしてさっき交換したばかりの二足の靴を、雫の前に並ばせる。
「靴が欲しいって言ってただろう? ついさっきポイントで交換しておいた。どっちが良い?」
「じゃあこっちで。ありがとうございます」
考える余地すらなく、雫は白のブーツを手に取った。
「即答かよ……。ま、俺もこっちの方が良かったから良いけど」
大天使よりも悪魔王の方が強そうなのにな。
こいつは俺が大事に使ってやろう。
それにしても、俺の装備は魔槍だったり悪魔王だったりと、どんどん物騒な名前の物になっていっている。
ミスリル装備だけが最後の砦だな。
さてと。
短いプレゼント会が終わったところで、彼女を呼んだ本題に入るとしよう。
「明日、雅たちを東京の外まで送り届けるつもりだ。お前はどうする?」
「どうする、とは?」
白のブーツを持ったまま、不思議そうに尋ねてくる雫。
「あの二人と一緒に外の安全な場所に行くか、俺と一緒もうしばらく東京に留まるか、だ」
「それって、秋月さんはこの危険な場所から出て行かないってことですよね?」
「ああ、そのつもりだ。少なくとも、知り合いの安否を確認するまで俺は出て行かない」
本当はレベリングとポイント集めもするつもりだが、それはわざわざ言わなくても良いだろう。
知り合いの安否云々ってのは本当だし。
そして、雫は俺がまだ留まると聞いて驚いている。
ま、当然だ。
普通なら一刻も早く安全な場所へ避難するのが常識だからな。
「私は……私が何故あの時、秋月さんに雅さんを助けてあげて欲しいと言ったのかわかりますか?」
「ん、あの時のか。いや、まったく見当もつかないな。どうしてなんだ?」
「私にも姉が居たんです。昔は、ですけど」
昔は居て、今は居ない。
つまりは……亡くなったってことだろう。
それにたぶん、俺と出会うよりもずっと前に亡くなっていると思われる。
「そうか。それで自分とあの姉妹の姿が重なって、助けて欲しいって言ったのか」
「そうです。相変わらず察しが良いですね。私の姉も、雅さんみたいに優しかったんです。はは……私らしくないですね。自分でもあの時はビックリしたぐらいですし」
……こういう時って、どういう言葉をかけてやれば良いんだろうな。
俺には全くわからん。
そうして俺が悩んでいると、そんな俺の様子を見た雫が少しだけ笑った。
「……人が心配してんのに、それを笑うやつがあるか」
「ふふっ、すいません。あの時、秋月さんには私のワガママを聞いてもらいました。なので今度は、私が秋月さんのお手伝いをしますよ。私たちは共犯者ですからね」
ん?
よくわからんが俺を手伝ってくれるらしい。
視野が広くて冷静な考え方ができる雫がいてくれると心強いし、戦力的にもかなり助かる。
たまにこいつが中学生だったってことを忘れそうになるぜ……。
「そうか……助かる。じゃあ今から夜のデートにでも行かないか? 今日はロマンチックな夜だからな」
どうせなら、雫にもコンビニまで付いてきてもらうとしよう。