藤色の若き虎16

 王下七武海であるトラファルガー・ローを加えたツバキ一行は、施設内を探索し誘拐されて来たという子供を救出するべく、ローを先頭に立たせて移動を開始していた。
 彼のすぐ後ろにはツバキが位置取っており、おかしな動きを見せれば即座に対処できるように警戒している。

「……藤虎屋、何もそこまで警戒する必要は無いんじゃないか? 俺は七武海の一人で、お前たち政府側の人間と言ってもおかしくはない。アンタにそう警戒されてちゃ怖くて仕方ないんだがな」

 出会った当初の一触即発な空気よりは遥かに関係性が改善されていたが、それでもツバキはローに対する警戒を緩めようとはしない。
 今のローは生殺与奪を常に握られているような状態だ。
 それは流石に居心地が悪いらしく、遺憾であると言わんばかりの表情でツバキに抗議した。

「俺が信用できると思わない限りはこのままでいく。個人的にはローさんのことはそこまで嫌いじゃねェが、アンタからは油断できない気配がするもんでね。部下の命を背負っている以上、野放しには出来ないよ」

 力という絶対的な暴力によって少なくとも今はこの男をコントロール出来ている。
 だが、それもいつまで効果があるのか分からない。
 ツバキにはローが勝算のない無駄な戦いを挑んで来るような者には見えなかったが、それは裏を返せば勝算があるなら裏切ってくる可能性があるということ。
 なまじ強力な海賊だからこそ、下手に信用でもすれば部下の命が危険に晒されてしまう恐れがあるので警戒を解くことは出来なかった。

「はぁ、そうかい。なら精々信用してもらえるように頑張るとするさ。藤虎屋とは今度とも仲良くしておきたいしな」

「理解してもらえて助かるよ」

 自分の置かれた立場を十分に理解しているローは、不満げな表情を見せながらもそれ以上文句を言うことは無くなった。

「たしぎ大尉、本部との通信はどうなった?」

「それが、この通り通信用の電伝虫がおかしくなってしまっていて未だに本部と連絡が取れていません。もしかするとこの島に妨害用の電波が発信されているのかも」

「なら仕方ないねェ。もう少し続けて駄目だったら諦めようか。連絡が取れないのはむしろ好都合でもあるし」

 今彼らは本来の任務ではなく、各地から無理やり連れて来られたという子供たちの救出に動いている。
 中途半端に今の現状を伝えるよりも事後報告という形の方が確実に面倒が少ない。
 サカズキの性格をよく知っているツバキは、だからこそ通信が取れないことを幸いだと言い切ったのだ。

「また怒られそうですね……」

「大丈夫だって。叔父貴はちょっと怒りっぽいだけだから。お土産でも持って行けばすぐに機嫌が良くなるさ」

「はぁ……」

 たしぎは文字通り烈火の如く怒りを撒き散らすサカズキの姿を想像して頭を抱えた。
 今自分達がしようとしていることが間違っているとは思わないが、組織とは綺麗事だけでやっていけるほど甘くはない。
 楽観的とすら言える上司の様子に彼女が不安を感じてしまうのも無理はなかった。

「最悪、ローさんの首を差し出せば何とかなるだろうし」

「……おい」

「ジョークだよ」

 部下たちがローに少なからず恐怖心を抱いているのを察知したツバキは、そんな半分くらいは本気な冗談で何とか場を和ませようとした。
 無論、ロー本人からすればたまったものではなかったが。

 そうして仲良く(?)なりながら施設内を進んでいると、ふいにツバキが足を止める。

「どうしたんだ、藤虎屋。ガキが捕まっている部屋はまだ先だぞ?」

「うーん、この先から大勢の人の気配がする。しかもまっすぐこっちに向かって来ているようだ」

「なに? ……一応言っておくが、それは俺が仕掛けた罠じゃないぞ。そもそも生半可な戦力でアンタを倒せるとは思わないしな」

「わかってるさ。もしも戦闘になったらローさんの力にも期待しているよ。みんなも警戒してくれ」

 周囲に警戒を促し、接近してくるという集団に備える一同。
 すると奥の暗闇から大勢の足音と話し声が聞こえ、そちらに目を凝らしてみると確かに大勢が移動して来ているのが見えた。

 ただ、少し様子がおかしい。

「あれは……もしかして巨人族の子供か?」

 人間の子供と思わしき姿も数名確認できたが、普通の子供にしては巨大すぎる体格を持つ者が多くいる。
 というかほぼ大半が巨人族と思われる子供だった。
 彼らは簡素な同じ服を着用しており、ツバキの頭に先ほどの人体実験の話がよぎる。

「おい、あの先頭を走っているの、あいつら麦わらの一味だぞ!?」

 その上集団の先頭を走っているの見覚えのある者達で、黒足のサンジを筆頭に麦わら海賊団の乗組員であるフランキー、ナミ、チョッパーの三人と一匹が十数名の子供を先導しながら移動していた。
 突然の遭遇に海軍側の陣営は皆驚き固まってしまったのだった。

 

   

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