結局、この島にいる間だけは休戦協定を結ぶことになった海軍と麦わらの一味。
船長不在のまま決めてしまうには大き過ぎる決定だが、事後報告で問題無いと本人たちが口を揃えて言うので、ツバキが海軍大将だと分かってからはすんなりと話が進んだ。
ここで事を構えるよりも、見逃してもらえる可能性があるなら協力した方が良いと判断したのだと思われる。
「さて、とりあえずの方針を話しておこう。お前さん達も聞いておいてくれ。まず──」
そうしてツバキが話した内容は簡単なものだった。
第一の目標としては子供たちを全員無事にこの島から連れ出すこと。
ツバキ達が乗って来た軍艦は並みの船よりは遥かに大きく、大勢の乗組員を乗せる事が可能な船だが、それでも人間よりも遥かに大きな彼女達を全員連れて行くのは物理的に不可能である。
故に本部との通信手段を確保し、多数の軍艦を要請する必要があった。
「島のどこかにある妨害電波を出している装置を破壊すれば、おかしくなっている電伝虫も元通りになる筈だ。それから船の手配を頼めば良い。子供たちを全員無事に島から脱出させるにはそれしかない」
「この広い施設の中を探し回るとなればかなり時間がかかりそうですね。一体どういう物なのかも分かりませんし……」
「それについてはシーザー本人を捕まえて吐かせれば良いさ。最悪、施設内にあるそれっぽい機械を適当に破壊していけばいずれは当たりを引くだろう。もっとも、どの道シーザーを逃がす訳にはいかないけど」
ツバキとて組織に属する者。
麦わらの一味を故意に見逃そうとしているどころか、海賊と手を組もうとしていることが悪であることは十分承知している。
だからこそ、何か別の手土産で補わなければならないと考えていた。
シーザー・クラウンはそれにうってつけの人物だ。
標的を麦わらの一味から変更しても然程おかしくない犯罪者で、サカズキも小言は言うだろうが強く叱責は出来ないと思われる。
上手くいけばツバキに対する懲罰も回避出来るだろう。
「あ、あの……」
そうして話し合いをしていると、大人の数倍は身長がある物静かそうな少女が遠慮がちに近付いて来た。
海軍側の人間はスモーカーを筆頭に強面の人間が多いので、その中でも比較的話しやすそうなツバキに声を掛ける。
ツバキも子供の相手は慣れているらしく穏和な笑みを浮かべて対応した。
「どうかしたかい。えーっと、確か君の名前はモチャだったよね?」
「う、うん。海軍のお兄さん、実はまだ奥の部屋にわたし達みたいな子が捕まっているの。だからその子たちも一緒に助けてもらえませんか? きっとみんなもおウチに帰りたいと思うから……」
そう言いながら不安の色を浮かべている彼女の願いを、ツバキは無下にはできなかった。
まだ子供たちが捕まっているのであれば何としても助ける。
背中に『正義』の文字を背負っているなら、それを実行するのに躊躇う理由は何も無い。
湧き上がって来るシーザーに対する怒りを抑え込みながら、出来るだけモチャを安心させるようにまっすぐ目を見ながら口を開く。
「もちろんだ。一人残らず海軍が救い出すと約束しよう。だからモチャ、君は安心して俺たちを信じてくれ」
「は、はい! ありがとう、お兄さん!」
すっかり安心したようでモチャはツバキに礼を言った後、たしぎや他数人の海兵にも同様に感謝の言葉を伝えていく。
その様子を見た他の子供たちも恐る恐るといった様子で近付いていき、気付けばすっかり子供たちに囲まれてしまう海兵。
皆、突然現れた集団にどこか近寄り難い空気を感じていたようだが、モチャの行動によってその壁が無くなったらしい。
「なぁなぁ、おじさんたちってどのくらい強いの?」
「お姉さんも海軍なの? カッコいいね!」
パワフルな子供たちの勢いに、海兵たち押され気味であった。
そして、こういう時に一番負担がかかる役割を担うのはこの部隊では最初から決まっている。
「お、落ち着いてください! 危ないから勝手に動き回らないで!」
「ガキィ……鬱陶しいから向こうに行ってろ。おいたしぎ、コイツらの相手はお前に任せる」
「わぁー、恐いおじさんが怒った! みんな逃げろー!」
「きゃははは」
先ほどまでの怯えはどこへ行ったのか。
たしぎが必死に落ち着けようとしても人数が多く、更には体も大きくて手が付けられない。
それに何故かスモーカーの周りに一番子供たちが集まっていて、周囲の海兵はいつ爆弾が爆発するかヒヤヒヤしていた。
「早く病気を治して、元の体に戻りたいよ。こんなに大きいと不便なことばっかり。元に戻れば、お兄さんたちとも普通に遊べるのになぁ」
「え?」
そんな中、モチャがポツリとそう呟いた。
ツバキは彼女のその言葉に違和感を覚え、すぐさま聞き返す。
「元の体……? なぁモチャ、君たちは巨人族の子供……で良いんだよな?」
「ううん。違うよ? わたしたちはここに来るまで普通の人間だったの。でも病気で、それでこんなに身体が大きくなっちゃったんだって。マスターがそう言ってた」