ドラゴンの……いや、彼の名前はモモの助というらしい。
この子もまたシーザー達に捕まっていた子供の中の一人で、どうも施設の中にあった奇妙な果実を食べてしまい、身体がこのようなドラゴンの姿になってしまったようである。
その果実とは恐らく悪魔の実だろう。
ただ、おかしいのはドラゴンの姿のまま人型に戻れなくなったという点だ。
ゾオン系の悪魔の実を食べても自由に人間の姿に戻れるのが普通であり、能力者は自然にそれが出来る筈なのだが、奇妙な事に桃ノ助はこの姿のまま変われずにいると言う。
多少その感覚に戸惑ってしまうことはあってもずっと戻れないということは聞いたことが無い。
「──ふむ、モモの助と言ったな? とりあえずさっきも言ったがここは危険だ。自分の体が心配だろうが、今は俺と一緒に来てもらえないか?」
「そ、それは構わぬが……お主が肩に担いでいる男は一体何者じゃ?」
「あぁ、コイツらはここの連中のボスとその仲間ってとこだ。しばらくは目を覚まさないから安心して良いよ。もしも目を覚ましても──心配はいらない」
「う、うむ! それは頼もしいな!」
ツバキから発せられる妙な圧力に若干気圧された様子のモモの助。
だが、それと同時に敵だらけの中でようやく自分を助けようとしてくれている人に会えたことで、ドラゴンの表情が心なしか安堵しているようにも見えた。
「この辺りにはもう人は居ない……いや、俺が助けるべき人は居ない。だからさっさと逃げようか。ここに留まるのもそろそろ限界だ」
今は重力を操作することによってガスをある程度コントロールしており、安全にこの危険地帯を移動する事が出来ている。
しかし、それも限界が近い。
体力的にはまだいくらか余裕があったが、そもそもガスを能力で追いやっているだけなので完璧に充満してしまえばどうする事も出来ないからだ。
「モモの助、俺の身体に掴まれるかい?」
「そ、そのくらいなら大丈夫だ」
モモの助がツバキの身体に巻き付いた。
ただでさえツバキは3メートル近いシーザーと、それよりは小さいとはいえ2メートルは優に超えているヴェルゴの二人を肩に担いでいる。
自身よりもはるかに大きな巨体を持つ二人に加え、そこにドラゴンの姿をしたモモの助が追加されることで異様な状況がよりカオスになる。
ただ、本人は至って真面目だった。
「とりあえず施設の外に出て俺の仲間と合流する必要がある。少し手荒に行くけど、しっかり掴まっているんだよ?」
「うむ、わかった!」
気合いを入れて返事をするモモの助。
しかしその数秒後、彼の悲鳴が施設中に木霊した。
◆◆◆
「ちょ、ちょっと止まれ! 止まるのだ! これ以上は身体が保たん!」
猛スピードで疾走するツバキに必死でしがみついているモモの助だったが、想像していたよりもその速度が数倍速く、早々に止まってくれと懇願する。
ゾオン系の悪魔の実を食べているので多少は身体能力が上がっている筈なのだが、それでも吹き飛ばされないようにするのが精一杯だった。
しかし、いくらモモの助が泣き叫んでもツバキは足を止めることをせずにそのまま走り続けている。
「悪いけどそれは出来ねェな。もうちょっとの辛抱だ。一応言っておくが俺から離れたら多分死ぬからな。まぁ、お前さんも男ならこれくらい笑って耐えられるだろう?」
「お主は鬼か!? 無理に決まっておろう! こんな速さで移動するなんて聞いてな……ッ!」
「あんまり喋ってると舌噛むぞ?」
「もうおひょいわ!」
モモの助はツバキと出会ってしまったことを早くも後悔し始めていた。
痛みと恐怖で顔がぐちゃぐちゃになっており、もしも人間の姿のままであれば子供といえども他人には見せられない顔をしているだろう。
ツバキとしても可哀想だと思わないでもなかったが、言い返せるくらいの元気がまだあるなら大丈夫だと思い、気にしないことにした。
尤も、本当に限界が来ればちゃんと助けるつもりではあるのだが。
「ほら、見えたぞ。あそこまで行けば休める。だからもう少し頑張れ、モモの助」
「うぅ……既に限界だと言っておろうが」
そう言いつつも残った力をふり絞り、ツバキに絡みついている部分が僅かに強くなった。
休めるという言葉と反骨精神の賜物である。
この特徴的な喋り方といい、ただの子供にしては少し変わった少年だとツバキは思った。
そして、ツバキは二人の大男とドラゴンの姿をしたモモの助を抱え込んだまま、無事に仲間たちと合流したのだった。